ラジオ体操に行くだけで20円

― 行政は高齢者を健康にするため、あの手この手を考えている

60代は鼻たれ小僧

毎朝、近所の公園でラジオ体操をしています。

夏休みに入ったので、最近は小学生の姿もかなり増えてきました。

眠そうな顔で親に連れてこられた子。
友達同士でキャッキャ言いながら走ってくる子。
ラジオ体操そのものより、終わった後に遊ぶことが目的ではないかと思われる子。

まあ、私も小学生の頃は似たようなものでした。

ところが、その元気いっぱいの小学生たちの横を見ると、もっとすごい人たちがいます。
年中参加している高齢者の皆さんです。
60代の私など、この集団の中ではまだまだ鼻たれ小僧。

「若い人は元気でいいわねえ」などと言われることがあります。

ラジオ体操で井戸端会議

66歳になって「若い人」と呼ばれる場所など、世の中にそう多くありません。
なかなか居心地のよい世界です。

杖でもシルバーカーでもラジオ体操にやってくる

毎朝参加している人たちを見ると、本当にいろいろです。

杖を突いて来る方。
歩行補助車(シルバーカー)で来られる方も全然珍しくありません。
ゆっくり、ゆっくり歩いてくる方。

それでも時間になると、それぞれ自分のできる範囲でラジオ体操を始めます。

ラジオ体操には途中でジャンプする運動がありますが、さすがに全員がピョンピョン跳ぶわけではありません。

跳ばずに腕だけ広げる人。
かかとだけ少し上げる人。
ほとんど動かず、音楽に合わせて気持ちだけジャンプしているように見える人。
それでいいのです。

オリンピックの予選ではありません。
誰も採点していません。

重要なのは、朝起きて、公園まで来て、体を動かすことなのでしょう。
それにしても私は時々思います。
今から20年後。 私は86歳前後です。
果たして杖を突きながらでも毎朝公園へやって来て、
「イチ、ニ、サン、シ」
と腕を振り回せているでしょうか。

まったく自信がありません。

むしろ今の段階では、「ラジオ体操の音楽が聞こえたけど、今日は暑いからやめておこう」という誘惑と毎朝戦っているくらいです。

昔は「かったるい」と思っていたラジオ体操

学生の頃、ラジオ体操なんて大嫌いでした。

体育の授業などでやらされると、「こんなものが何の運動になるんだ」と思っていたものです。

若い頃というのは恐ろしいものです。
走れば何キロでも走れる。
階段など二段飛ばし。
しゃがんだら、「どっこいしょ」と声に出さなくても、そのまま何事もなかったように立てる。

ところが60代になると事情が変わります。

ラジオ体操第一が終わり、首の運動、続いて第二。
最後まで真面目にやると、夏場など額から汗が出ています。

子供の頃には準備運動だったはずのラジオ体操が、今では立派な本番です。

体を横に曲げれば脇腹が伸びる。
ぐるぐる腕を回せば肩が動く。
前屈すれば、自分の体の硬さに絶望する。
ジャンプすれば膝と相談する。
約6分ほどの体操の中に、老後の体力測定がすべて詰まっているような気さえします。

本当の目的は体操より井戸端会議かもしれない

ただ、このラジオ体操。
高齢者にとって一番大切なのは、体操そのものではないのかもしれません。

体操が始まる前。そして終わった後。
あちこちで始まる井戸端会議です。

話題の中心は、当然ながら健康。
「あの山本さん、最近体操に来ないから心配で見に行ったら、腰が痛くて寝てらっしゃったのよ」
「田中さんは、ご主人の調子が悪くて、しばらく目が離せないから体操を休むって」
「そういえば近藤さん、この前ここへ来る途中で足がカクッとなって、そのまま救急車で病院へ行って、今入院してるって」
……。

ラジオ体操へ来る途中で途中棄権。
しかも救急車。
なかなか厳しい大会です。

箱根駅伝でもここまで波乱は起こらない気がします。

しかし、考えてみればこの会話、単なる世間話ではありません。
毎朝顔を合わせるから、「あれ? 今日はあの人がいない」と気づく。

数日来なければ、「どうしたのかしら」と誰かが心配する。
場合によっては様子を見に行く。

これは行政が高いお金をかけてシステムを作らなくても成立している、地域の見守りネットワークなのかもしれません。

  • サーバーも不要。
  • クラウドも不要。
  • AIも不要。

必要なのは、公園とラジオと、多少おしゃべり好きな人たちです。

しかもラジオ体操に行くと1日20円もらえる

そして以前にも書きましたが、私の住んでいる市では、ラジオ体操に参加するとポイントがもらえます。
1回参加すると、その価値は20円。
たった20円。
されど20円。
100回参加すれば2,000円です。

毎朝、「健康のためにラジオ体操へ行こう」と思っても、布団の誘惑に負けることがあります。

しかし、「今日は20円を稼ぎに行こう」と思うと、なぜか少しだけ起きる理由になります。

人間というものは現金なものです。

もっとも、この20円を稼ぐために車で公園まで行ってガソリンを使ったら完全な赤字ですが、およそ1キロを私は歩いて行きます。

市としても、20円払って高齢者が毎朝歩いて公園へ来て、体を動かして、近所の人と話をしてくれるなら安いものでしょう。

もし運動不足が原因で病院へ行き、医療費が何千円、何万円とかかれば、公費の負担もそれだけ増えます。

それなら20円払ってでも動いてもらおう。
行政の担当者が電卓を叩きながら、「よし、20円でいこう」と決めたのかどうかは知りません。

しかし、考え方としては実に合理的です。

今度はスマホを使って老人を歩かせる

さらに最近は、ラジオ体操だけではありません。

市から健康管理用のスマートフォンアプリまで提供されています。

このアプリでは、

  • 1日に何歩歩いたか。
  • 血圧。
  • 体温。
  • 体重。
  • そして三食の献立。

こうしたものを登録するとポイントが貯まります。

つまり市役所から、「歩きなさい」「血圧を測りなさい」「体重も測りなさい」「ちゃんとご飯も記録しなさい」
とスマホを通して指導されているようなものです。

母親か。

もっとも、これがなかなかよくできています。
スマホを持って歩けば歩数が自動的に記録され、健康データを入力するとまたポイント。

私は昨日の段階で、ラジオ体操分を除いて約32,000ポイント貯まっています。
このペースなら年末には6万ポイントくらいになるでしょう。

いつの間にか私は、市が運営する健康ゲームのプレーヤーになっていました。

500ポイントをラジオ体操1ポイントと交換

この健康アプリのポイントは、500ポイントでラジオ体操の1ポイントに交換できます。

ラジオ体操1回分が20円ですから、「ああ、なるほど」と思います。

年末に6万ポイント溜まっても、(6万/500)ポイント×20円=2,400円

さらに別の使い道もあります。

抽選で1,200名に、2,000ポイントを1,000円分の市内で使えるポイントへ交換できる仕組みもあります。

こちらは当たればなかなか大きい。
健康のために歩いて、
血圧を測って、
体重を登録して、
ご飯まで記録して、

最後に抽選。

健康づくりなのか福引きなのか、だんだん分からなくなってきました。

しかし、こういう仕掛けは嫌いではありません。

「健康のために毎日8,000歩歩きましょう」と言われるだけなら、「はいはい」で終わります。

ところが、「歩けばポイントが貯まります」と言われると、

スーパーまで車で行こうと思ったところを、「今日は歩くか」となる。

人間の心理をよく研究しています。
行政もなかなかやります。

行政は高齢者を病院へ行かせないために必死なのだと思う

日本では、これからさらに高齢者が増えていきます。

高齢者が増えれば、当然ながら医療費や介護費も増えていきます。

行政としては、病気になってから病院へ行ってもらうより、その前に少しでも元気でいてもらいたい。

寝たきりになるより歩いてもらいたい。

一人で家に閉じこもるより、外へ出てもらいたい。

そこで、
公園でラジオ体操をさせ、20円を渡し、
スマホアプリを作り、歩数を数え、
血圧を記録させ、
最後はポイントまで渡す。

考えてみれば、かなり涙ぐましい努力です。
高齢者一人を朝、公園へ送り出すために、行政もあの手この手です。

そのうち、

  • 「階段を上ったら3ポイント」
  • 「野菜を食べたら5ポイント」
  • 「お酒を控えたら10ポイント」
  • 「病院へ行かなかった月はボーナス500ポイント」

などという制度まで始まるかもしれません。

そうなったら私はかなり真剣に取り組むと思います。

20円以上の価値は、たぶんある

毎朝公園へ行く。
少し歩く。
体を動かす。
顔見知りと話す。
誰かが来なければ心配する。
そしてスマホで健康状態を記録する。

一つ一つは大したことではありません。
しかし、これを毎日続けることに意味があるのでしょう。

市からもらえる20円は小さな金額です。
でも行政から見れば、「この20円で今日も一人、公園へ歩いて行ってくれた」と思えば、決して高くありません。

私としても20円をいただきながら、「行政も老人を健康にしておくため、いろいろ考えているんだなあ」と感心しています。

そして朝の公園では今日も、
杖を突いた人、
シルバーカーの人、
元気いっぱいの80代、
まだ鼻たれ小僧の60代、
そして夏休みの小学生が並んで、ラジオ体操第一が始まります。

20年後。
私が今の先輩方のように公園へ歩いて来られるかどうかは分かりません。
ただ願わくば、その頃もラジオ体操の制度が続いていてほしい。

そして欲を言えば、物価上昇分くらいは考慮して、
1回20円が30円くらいになっていてほしいものです。

健康も大事。
でもインフレ対策も大事です。

※本記事は、筆者自身の経験や調査に基づく情報提供を目的として作成しています。
 投資には価格変動などのリスクがあり、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断は、ご自身の責任において行ってください。
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 本記事は、投資助言、税務相談、保険加入等を推奨するものではありません。
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