年金はいつから受給するのが得なのか? 第3回「番外編」

- 60歳からもらった年金をS&P500に投資していたらどうなった?

第1回では、私自身の年金額を使って、

60歳、65歳、70歳、75歳から受給した場合の前提条件をそろえました。

第2回では、単純な年金受給額だけではなく、

  • 所得税
  • 住民税
  • 国民健康保険
  • 介護保険
  • 75歳以降の後期高齢者医療保険

まで計算し、実際に手元に残る金額で損益分岐点を比較しました。

その結果、私の場合、60歳開始と65歳開始で比較したら、75歳前後で65歳開始が逆転。

65歳開始と70歳開始なら、よく言われる「約82歳」ではなく、税金や社会保険料まで考えると84歳前後で70歳開始が逆転

75歳まで繰下げると、65歳開始を上回るのはさらに先。

なかなか興味深い結果になりました。

これで終わり。……のはずでした。

ところが夜になって、ふと思ったのです。

ちょっと待てよ。

この計算、60歳から年金を受け取った人は、「受け取った年金を全部使いました」ということになっています。

でも、もし使わなかったら?

もっと言えば、

その年金を「NISAでS&P500に投資していたら?」

ここから今回の番外編です。

「早くもらった年金」には時間という価値がある

年金の損益分岐点は普通、「何歳までにいくら受け取ったか」で計算します。

例えば60歳から年金をもらえば、当然65歳開始より5年早くお金が入ってきます。

しかし、その代わり一生の年金額は少なくなる。

だから65歳以降、少しずつ追いつかれて、ある年齢で逆転する。

非常に分かりやすい。

ただし、この計算では、

60歳でもらった100万円も、65歳でもらった100万円も同じ100万円 として扱います。

でも、本当に同じでしょうか。

60歳でもらった100万円には、65歳になるまでの5年間という時間があります。

貯金してもいい。

使って旅行してもいい。

投資してもいい。

つまり、早く受け取ったお金には、「先に使える」という価値があります。

そこで今回は、その中でも一番極端な使い方をしてみます。

NISAでS&P500への投資です。

60歳から受け取る年金の手取りが、偶然にも約120万円

前回計算した私の60歳受給開始の場合。

年金額は額面で約129.4万円。

そこから税金や国保などを差し引いた手取りは、年間約120万円。

これを見ていて、妙なことに気づきました。

当時の旧NISAの年間投資上限も、120万円。

ほぼ同じです。

だったら話は簡単です。

60歳から年金をもらう。

その年金には手を付けない。

毎年120万円、そのままNISAでS&P500へ投資する。

こんな老人がいたら、どうなったのでしょう。

今回は毎月10万円の積立にすると計算がややこしくなるので、毎年12月末に120万円を一括投資したことにします。

投資期間は、2020年末、2021年末、2022年末、2023年末、2024年末、の5年間。

合計投資額は、120万円×5年=600万円です。

ちなみに旧NISAは2023年で終了していますので、2024年は新NISAになります。

ただし今回は制度比較が目的ではありません。

単純に、「毎年120万円を非課税口座でS&P500へ入れた」

として考えます。

2020年からの5年間は、とんでもなく恵まれた時期だった

投資先は、分かりやすくS&P500連動の投資信託とします。

そして実際の過去の値動きを使います。

これは、「これからS&P500が毎年何%上がるでしょう」という未来予測ではありません。

2020年から2024年までは、すでに終わっています。

結果を知っている過去です。

この5年間、米国株そのものが上昇しました。

さらに日本からS&P500へ投資していた場合、円安も大きく効きました。

日本円でS&P500の投資信託を持っていた人にとっては、かなり恵まれた期間だったわけです。

年末ごとに120万円を投資して、2024年末で評価すると、

  • 2020年末に投資した120万円は約309万円。
  • 2021年末分は約214万円。
  • 2022年末分は約227万円。
  • 2023年末分は約169万円。
  • 2024年末分は投資したばかりなので120万円。

合計すると、投資元本600万円が約1,039万円。

なんと、約439万円の運用益 が出た計算になりました。

600万円が約1,039万円。

約73%増です。

もちろん毎年同じ120万円を入れているので、「5年間で73%上昇した」という意味ではありません。

早く投資したお金ほど長く運用されています。

2020年末の120万円など、約4年間市場に置かれていたわけです。

でも600万円を年金累計に足してはいけない

ここは間違えやすいところです。

60歳から64歳まで受け取った年金約600万円。

それを投資して約1,039万円になった。

では、「60歳開始の年金累計に1,039万円を足せばいい」のか。

違います。

元本600万円は、すでに第2回の「60歳開始の累計年金」に含まれています。

その600万円を財布から証券口座へ移動しただけです。

右のポケットから左のポケットへ移しただけ。

増えたわけではありません。

新しく生まれたお金は、運用益の約439万円です。

したがって、第2回で計算した60歳開始の累計手取り額に加えるべきなのは、約1,039万円ではなく、約439万円だけです。

NISAなので、この439万円に税金はかからない

ここでNISAが効いてきます。

通常の課税口座なら、投資の利益には約20%の税金がかかります。

しかしNISAなら、運用益は非課税です。

今回の約439万円の利益にも、通常の売却益にかかる税金はありません。

さらに、NISAの利益は年金所得ではありませんから、

今回計算した所得税や住民税、国保、介護保険料の年金所得計算にも基本的には加えません。

つまり今回の単純化した比較では、約439万円がほぼそのまま60歳開始側のプラスになります。

これは結構大きい。

すると75歳で逆転していたはずが……

第2回では、60歳受給開始と65歳受給開始を比較すると、75歳前後で65歳開始が逆転しました。

60歳から5年間先にもらっていたアドバンテージを、65歳開始の高い年金額が少しずつ追いかけて、75歳頃に追いついたわけです。

では60歳開始側に、先ほどの投資利益約439万円を加えてみましょう。

しかも今回は60歳開始側にかなり厳しく、65歳以降は投資をやめることにします。

2024年末時点の約439万円の利益をそのまま固定。

65歳以降は増えない。

S&P500が上がっても知らない。

複利もなし。

預金利息すらなし。

タンスにでも入れておいたことにします。

それでも結果は大きく変わりました。

65歳開始が追いつくのは、なんと82歳前後

第2回の計算では81歳時点で、60歳開始の累計手取りは約2,680万円。

65歳開始は約3,071万円。

投資をしなければ、当然65歳開始の方がすでに約391万円上です。

ところが60歳開始側には、約439万円の投資利益があります。

2,680万円+439万円。

約3,119万円。

すると、

60歳開始+投資 約3,119万円
65歳開始    約3,071万円

まだ60歳開始+投資の方が約48万円上です。

ところが82歳になると、

60歳開始の累計手取り約2,803万円+439万円。ということで約3,242万円。

一方、65歳開始は約3,252万円。

ここで初めて65歳開始が上回ります。

つまり、投資をしなければ75歳前後で逆転。

それが、60歳から5年間S&P500へ投資していたら、逆転は約82歳。

約7年も後ろへ延びました。

まさか、ここでも「82歳」が出てくるとは

これはちょっと面白い結果になりました。

一般によく言われる、「65歳受給と70歳繰下げの損益分岐点は82歳くらい」という数字。

第2回では税金や社会保険料まで計算すると、私の場合は約84歳まで後ろへずれました。

ところが今度は、60歳受給+S&P500投資と65歳受給を比べると、こちらも約82歳。

まったく別の計算なのに、また82歳が出てきました。

年金界の82歳。

なかなかしぶとい数字です。

早く受け取るか、遅く受け取るかだけでは決まらない

ここまで計算して、年金の損得というのは思った以上に難しいことが分かりました。

単純に言えば、

繰上げは、少ない年金を早くから長くもらう。

繰下げは、受け取りを我慢して、その後多くもらう。

この比較です。

しかし現実には、早く受け取った年金を何に使うか? という問題があります。

全部生活費に使う人。

貯金する人。

旅行に使う人。

住宅ローン返済に使う人。

孫に使う人。

そして投資する人。

同じ60歳繰上げ受給でも、その後の使い方によって最終結果は全く違います。

今回のように投資がうまくいけば、繰上げ受給の不利をかなり補える可能性があります。

反対に投資した直後に大暴落して、

600万円が400万円になっていた可能性だってあります。

年金の繰下げ増額には株価の暴落はありません。

S&P500にはあります。

ここは全く違うリスクです。

この結果を見て「60歳から受け取って投資すべき」とは言えない

今回の結果だけを見ると、「だったら60歳から年金をもらって全部NISAでS&P500に入れればいいじゃないか」と思うかもしれません。

私はそうは思いません。

なぜなら、2020年から2024年という期間が、結果的に非常に恵まれていたからです。

米国株は上昇。

さらに円安。

日本から米国株へ投資した人には、二重の追い風が吹きました。

しかし同じ5年間でも、時期が違えば結果は全く変わります。

もし受給開始直後に大暴落が来ていたら。

その後10年間株価が低迷していたら。

円高が大きく進んでいたら。

今回とは反対の結果になったかもしれません。

年金は終身で支給される社会保障。

株式投資は価格が上下するリスク資産。

同じ土俵の商品ではありません。

だから今回の話は、「繰上げ受給+S&P500が最強だった」という話ではありません。

年金には「受け取り開始年齢」だけでなく「受け取った後」がある

第1回では条件をそろえました。

第2回では税金や社会保険料まで入れて、実際の手取りで比較しました。

そして今回の番外編では、もう一つ見落としていたものがありました。

それが、受け取った後のお金の使い方です。

年金の比較では、

  • 「60歳なら何%減額」
  • 「70歳なら42%増額」
  • 「75歳なら84%増額」

という数字ばかりが注目されます。

しかし早く受け取った人には、そのお金を早く使えるという選択肢があります。

使って楽しむことも価値。

貯金して安心を得ることも価値。

投資して増やす可能性を持つことも価値。

だから、「何歳から受け取れば最も得か」という問いに、全員共通の答えを出すのは、やはり難しいのだと思います。

最後に

今回の計算では、

60歳から受け取った年金をS&P500に投資していたら、結果としてかなり有利だったことが分かりました。

ですが、これは結果を知っている今の私が、2020年を振り返って計算しているから言える話です。 2020年の時点で、5年後にこうなると分かっていたわけではありません。

それが分かるくらいなら、暑い部屋で、「年金は何歳からもらうのが得か」などという、しみったれたブログを書いていません。

今頃、未来の株価を全部当てて、S&P500どころか、もっと危ないものに全財産を突っ込んで、海外の別荘で避暑生活をしています。

アイスコーヒーを飲みながら、「年金? そんなもの気にしたことないね」と言っているはずです。

未来が分かったらブログなんて書いてない

残念ながら、未来は分かりません。

だから年金も投資も、その時点で分かる範囲で判断するしかありません。

今回分かったことは、ただ一つ。

年金の損得は「何歳から受け取るか」だけでは決まらない。

早く受け取ったお金を、その後どう使うかによっても、結果は大きく変わる。

これが、この3回にわたって年金の損益分岐点を計算してみた、私なりの結論です。

※本記事は、筆者自身の経験や調査に基づく情報提供を目的として作成しています。
 投資には価格変動などのリスクがあり、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断は、ご自身の責任において行ってください。
 年金制度、健康保険制度、保険料、税金等の取り扱いは、法改正やお住まいの自治体、年齢、所得、家族構成などによって異なる場合があります。最新の情報は、年金事務所、自治体、税務署等の窓口でご確認ください。
 本記事は、投資助言、税務相談、保険加入等を推奨するものではありません。
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