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日本は豊かな国なのか、貧しい国なのか
日本株が、とんでもないことになっています。
少し前まで「日経平均4万円!」と騒いでいた気がするのですが、2026年5月には史上初めて6万5000円を突破。
さらに6月25日には、一時7万2366円まで上昇しました。
7万円です。
私が若かった頃の日経平均を知っている人間からすると、「計算方法、途中で変えたんじゃないの?」と疑いたくなる数字です。
もちろん、本当に変えたわけではありません。
企業業績、AI・半導体関連への期待、円安、株主還元の強化、東京証券取引所による企業改革など、いろいろな理由があります。
しかし、現在の日本株を語るとき、絶対に忘れてはいけない存在があります。
海外投資家です。
東京証券取引所では、海外投資家が株式売買代金の約6割を占めるほど大きな存在です。
そして2025年度には、海外投資家による日本株の買い越し額が約10兆3000億円に達しました。
つまり今の株高は、「日本人が日本の将来を信じて、みんなで日本株を買った結果」だけではありません。
世界中の巨大な投資資金が、「日本株はまだ買える」「日本企業には価値がある」「円安も含めれば投資妙味がある」と判断して、日本株に流れ込んでいる。
その力が現在の日経平均6万円、7万円時代を支える大きな要因になっています。
ここは、ちょっと不思議な話です。
日本人自身は、「物価が高くて生活できない」「食品を安くしてほしい」「消費税を下げてほしい」と悲鳴を上げている。
ところが海外の投資家は、「日本企業、結構いいじゃないか」と何兆円ものお金を持ってくる。
いったい日本は豊かな国なのか、貧しい国なのか。
話がややこしくなってきました。
世界では物価高、日本でも物価高。でも意味が少し違う
アメリカでもヨーロッパでも物価高が問題になっています。
- 家賃が高い。
- 食品が高い。
- 外食が高い。
- 電気代も高い。
- ガソリン代も高い。
だから、「物価上昇を止めてくれ」という声が出る。
日本も同じです。
スーパーへ行けば、食品価格は次々に上がっています。
そこで食品の消費税率を大幅に下げる、といった議論まで出てきます。
家計だけを見れば、もちろんありがたい話です。
1000円の買い物が少しでも安くなれば助かります。
私だってスーパーのレジで、「今日は高いから、ぜひ多めに払わせてください」なんて言ったことはありません。
しかし、日本と欧米では少し事情が違います。
欧米は、もともと所得も物価も高かった国で、さらに物価が上がった。
だから苦しい。
日本は、長い間、所得も物価も低いままだったところに、物価だけが上がり始めた。
だから苦しい。
似ているようで、かなり違います。
「日本だけ安い」は、本当に幸せなのか
日本では長い間、値上げ=悪 という感覚がありました。
牛丼は安い方がいい。
ラーメンも1000円を超えたら高い。
コーヒーも安い方がいい。
スーパーの卵も安い方がいい。
企業も必死に価格を抑えてきました。
値上げすると客が離れる。
だから原材料費が上がっても我慢する。利益を削る。人件費を抑える。そして給料が上がらない。
給料が上がらないから、お客も値上げを受け入れられない。
そして企業はまた価格を上げられない。
見事な永久機関です。
ただし、永久に動くのは景気ではなく、「安い日本」製造機 です。
国内だけで生活しているうちは、それでも何とか成立しました。
ところが日本は、食料もエネルギーも原材料も、海外から大量に買わなければ生きていけない国です。
海外の商品は、「日本人の給料が安いから特別価格にしてあげますね」とは言ってくれません。
100ドルのものは100ドルです。
1ドル100円なら1万円。
1ドル160円なら1万6000円。
日本国内でいくら値上げ反対運動をしても、海外の商品価格は下がりません。
むしろ、日本だけが低賃金・低物価を続ければ続けるほど、世界との購買力の差が広がります。
「所得2.5倍、物価2倍」の方が豊かではないか
極端な話をしてみます。
現在の所得を100、物価を100とします。
これが将来、
- 所得250
- 物価200
になったらどうでしょう。
「物価が2倍になった!」だけを見れば大変です。
500円の昼食が1000円。
300円のコーヒーが600円。
1万円のホテルが2万円。
ところが所得は2.5倍です。
年収400万円だった人なら1000万円。
年金200万円だった人なら500万円。
単純化した思考実験ですが、購買力はむしろ増えています。
だったら、値段を昔に戻せ ではなく、値段が上がっても困らない所得を作れ という方が、本来の解決策ではないでしょうか。
もちろん政府が紙幣を刷って全員に配ればいい、という話ではありません。
そんなことをしたら物価が2倍どころか3倍、4倍になるかもしれません。
必要なのは、日本が世界に売れる価値を作り、その対価として海外からお金を稼ぐことです。
問題はそこからです。
では、日本には世界に売れるものがあるのか
あります。
日本の製造業には今でも世界トップクラスの企業があります。
- 半導体製造装置
- 半導体材料
- 精密機械
- 工作機械
- 産業用ロボット
- 自動車
- 電子部品
- 特殊化学
- センサー
世界の工場が止まったら困るような日本製品、日本企業は、今でも数多く存在します。
製造業だけではありません。
- ゲーム
- アニメ
- 漫画
- 観光
- そして和食
寿司や刺身は、もはや日本人だけの食文化ではありません。
世界中に寿司店があります。
私が子供の頃、「外国人が生魚を食べる」なんて聞いたら、たぶん冗談だと思ったでしょう。
今ではニューヨークでもロンドンでもパリでも、普通にSUSHIです。
日本には、まだ世界に売れるものがあります。
だから、「日本には何もない」という悲観論には賛成できません。
しかし問題があります。
それだけで1億人以上の日本人を豊かにできるのか。
これは別の話です。
世界一の技術が「点」であっても、国全体は豊かにならない
世界一の会社が1社あっても、日本全体が裕福になるわけではありません。
世界一の技術が10個あっても同じです。
必要なのは、そうした企業や産業が巨大な経済圏を作ることです。
アメリカを見れば分かりやすい。
- Apple
- Microsoft
- Amazon
- Meta
- NVIDIA
巨大企業が何社もあります。
さらに、その周りに何千、何万という会社があります。
- 大学があります。
- 研究機関があります。
- ベンチャーキャピタルがあります。
- スタートアップがあります。
- 世界中から人材が集まります。
- 世界中から投資資金が集まります。
一つの会社だけが巨大なのではなく、巨大な「稼ぐ生態系」ができています。
日本には
- 優秀な会社があります。
- 優秀な技術者もいます。
- 優れた文化もあります。
しかし、それらが国民全体の所得を大きく押し上げるほどの巨大な流れになっているかと言われれば、かなり心許ない。
OECDも2026年の日本経済について、労働生産性がOECD上位国よりかなり低く、その差が一人当たり所得の格差につながっていると指摘しています。
つまり、「日本人は真面目に働いている」だけでは足りません。
何時間働いたかではなく、
1時間働いて、世界からいくら稼げるのか。
こちらが問題なのです。
では、なぜ日経平均は7万円まで上がるのか
ここで最初の話へ戻ります。
日本人の所得は世界トップクラスとは言えない。
日本経済も高成長ではない。
少子高齢化も進んでいる。
人口も減っている。
それなのに日経平均は最高値圏。
変な話です。
しかし、株式市場から見れば、それほど変でもありません。
株を買う人は、
「日本人全員が豊かになるか」を見ているわけではありません。
その会社が利益を上げられるか。を見ています。
日本国内が人口減少していても、世界で売れる会社なら成長できます。
円安なら、海外で稼いだドルを円換算した利益は膨らみます。
株主還元を増やせば魅力も増します。
企業統治が改善されれば評価も上がります。
東京証券取引所も2023年から、上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営を強く求めています。
海外の投資家から見れば、「日本経済全体には問題が多い。でも、この会社は買える」という判断が成立します。
そして実際に海外投資家は、日本株市場の売買で圧倒的に大きな存在です。
2024年には売買代金のおよそ6割を海外投資家が占めました。
2025年度には、海外投資家の日本株買い越し額が約10兆3000億円に達しています。
10兆円です。
私のような少額投資家が、
なんて言っている世界とは桁が違います。
世界の機関投資家が巨大な資金を日本株へ流し込む。
その買いが株価を押し上げる。
日本企業の株価が上がる。
日経平均が6万円、7万円になる。
ところが、日本の普通の家庭が大量の日本株を持っていなければ、その恩恵は限定的です。
そこで不思議な景色が生まれます。
テレビでは、「日経平均、史上最高値!」
スーパーでは、「キャベツ、高っ!」
同じ日のニュースです。
日本企業が成長しても、その果実を誰が受け取るのか
海外投資家が日本株を買うこと自体は、決して悪い話ではありません。
むしろ日本企業が世界から評価されている証拠です。
外国人が買ってはいけない、などと言い始めたら、それこそ日本市場の魅力はなくなります。
ただ、考えておかなければならないことがあります。
株価が2倍になったとき、その株を持っていた人の資産は増えます。
日本人が持っていれば日本人の資産が増える。
アメリカの年金基金が持っていれば、アメリカの年金資産が増える。
欧州のファンドが持っていれば、その投資家の資産が増える。
配当も同じです。
つまり、日本企業が強くなることと、日本国民全員が豊かになることは同義ではありません。
ここを混同すると、「日経平均7万円なんだから、日本経済は絶好調でしょう」という妙な話になります。
株価は絶好調。
でも庶民は食品消費税を下げてほしいと言っている。
この二つは同時に成立するのです。
国内の格差以上に「世界との格差」が広がっていないか
日本では、「貧富の差が広がっている」という話をよく聞きます。
もちろん、それも重要な問題です。
しかし私は最近、それ以上に気になることがあります。
日本という国そのものが、世界の富裕国との競争で相対的に貧しくなっているのではないか。
ということです。
国内だけにいれば、意外と分かりません。
スーパーで米が高くなった。
電気代が上がった。
外食が高くなった。
それでも日本円で生活していますから、去年との比較しか見ません。
ところが海外へ行けば、一発で分かります。
ホテル、高っ。
食事、高っ。
コーヒー、高っ。
タクシー、高っ。
海外から日本へ来る人は逆です。
ホテル、安い。
食事、安い。
電車、安い。
サービス、素晴らしい。
そして、
「Japan is cheap!」
と言われる。
日本人としては、「日本は素晴らしいから観光客が来ているんだ」と思いたい。
もちろん、それもあります。
京都も富士山も寿司も温泉も素晴らしい。
でも、安いから来やすい という理由まで否定する必要はないでしょう。
今の日本は「明治時代の没落貴族」に似ている
ここまで考えているうちに、今の日本を表す言葉を思いつきました。
没落貴族。
昔はものすごいお金持ちでした。
立派なお屋敷があります。
床の間には、「世界第2位の経済大国」という掛け軸があります。
隣には、「世界に誇る日本の技術」という額も飾ってある。
倉庫を開ければ、新幹線。自動車。ウォークマン。半導体。液晶テレビ。
世界を驚かせた昔の勲章がずらりと並んでいます。
近所の人も、「昔はこちらのお宅は、本当にすごかったんですよ」と言ってくれる。
本人も誇らしげです。
「うちは昔、世界を席巻した電機メーカーが何社もありましてね」
しかし現在を見ると、屋根は傷んでいる。庭を手入れする人はいない。使用人は高齢化。跡継ぎも少ない。現金収入も細っている。
それでも、「うちは名家ですから」と言っている。
これが今の日本に似ています。

さらに面白いことに、外国人がその屋敷を訪ねてきます。
「Wonderful!」「Beautiful!」「Cheap!」
そして庭を見学して、寿司を食べて帰っていく。
主人は喜びます。
「いやあ、日本文化が世界に評価されていますな」
もちろん、それは本当です。
でも最後の、Cheap!は、ちょっと気になります。
食品を安くするだけで、この屋敷は復活するのか
そんな状況で、「物価が高いから食品の消費税を1%にしましょう」という話が出ています。
生活支援としては分かります。
今困っている人を助ける必要もあります。
しかし、それだけでは根本治療にはなりません。
没落貴族に例えれば、屋敷の収入が減っているのに、「近所のスーパーの5%割引券を配ります」と言っているようなものです。
ありがたい。
確かにありがたい。
でも聞きたい。
この家、これから何で稼ぐんですか?
こちらが本当の問題です。
日本に必要なのは、世界の物価上昇から日本だけ逃げることではない。
世界と同じ価格でも生活できるだけの所得を作ることではないでしょうか。
500円の昼食を400円へ戻すことではなく、1000円の昼食を普通に食べられる給与を作る。
300円のコーヒーを守ることではなく、600円のコーヒーでも高いと感じない所得を作る。
それには政府が数字を操作するだけでは無理です。
日本企業が世界に価値を売らなければならない。
世界から稼がなければならない。
その利益が賃金になり、投資になり、年金や社会保障を支える税収にならなければならない。
日経平均7万円は「日本復活」の証明ではない
日経平均が7万円になったことは、もちろん喜ばしいことです。
少なくとも世界の投資家は、「日本企業にはまだ価値がある」と考えている。
これは大きな希望です。
日本が本当に終わった国なら、海外から10兆円もの株式資金は入ってきません。
ただし、日経平均7万円=日本人が豊かになったではありません。
むしろ現在の株高は、非常に象徴的です。
世界の投資家は、日本の優良企業を見つけて買う。
その結果、株価は最高値になる。
一方、日本国内では物価高に苦しみ、「食品を少しでも安くしてください」という声が上がる。
この二つが同時に起きている。
私はそこに、現在の日本の姿が凝縮されているように思います。
世界に誇れるものは、まだある。
資産もある。
技術もある。
文化もある。
企業もある。
だから完全な貧乏国ではない。
しかし、その資産を使って次の富を十分に生み出せているとは言い難い。
まさに、立派な屋敷と家宝は残っているけれど、毎月の生活費に頭を抱える没落貴族。
そんな姿です。
食品を昔の値段へ戻しても、世界との差は縮まりません。
円を使って国内だけで安く暮らせる国を守るのか。
それとも、世界と同じ価格を払っても平気なくらい稼げる国を目指すのか。
そろそろ日本は、「どうすれば安く暮らせるか」ではなく、「どうすれば高くても暮らせるほど稼げるか」を真剣に考える時期に来ているのではないでしょうか。
床の間に飾った「昔はすごかった日本」という掛け軸を眺めながら昔話をしていても、屋敷の修繕費は出ません。
没落貴族からもう一度、稼げる家へ。
それができるかどうか。
日経平均が7万円をつけた今だからこそ、株価ではなく、日本そのものの価値を考えてみたいと思います。


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