- 預金か運用か、テレビを見ながら考えた
預金か、それとも資産運用かという話題
先日、テレビで「預金か、それとも資産運用か」というテーマを取り上げていました。 最近はNISAが普及したこともあり、こうした話題をよく見かけます。
「預金は安全」「投資はリスクがある」 確かに、その通りです。 ただ、私は以前から一つ疑問に思っていることがあります。
「預金は本当に安全なのか?」
もちろん、銀行に100万円預けておけば、株式のように突然70万円になることはありません。 しかし、100万円で買える「物の量(購買力)」まで保証されているわけではありません。 現在のように物価が上昇している状況では、通帳の残高が減らなくても、お金の実質的な価値は少しずつ減っていきます。 つまり、「預金にもインフレというリスクがある」ということです。
預金しているだけで資産が目減りする
2026年8月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、前年同月比1.9%の上昇でした。 一方、大手銀行の普通預金金利は年0.4%程度です。
例えば、1,000万円を普通預金に預けたとします。 1年間の利息は税引前で4万円。 ところが物価が1.9%上昇すれば、前年に1,000万円で買えた物を買うには、単純計算で1,019万円必要になります。 銀行口座には1,004万円(税引前)と表示されているのに、実際に買える物の量は減っているわけです。
仮に物価上昇率2%の状態が10年間続いた場合、金利を考慮しなければ、1,000万円の購買力は現在の約820万円相当まで低下します。 通帳の数字は1,000万円のまま。でも買い物に行けば、以前より約2割も物が買えなくなっている計算です。
インフレとは、なかなか恐ろしいものです。 泥棒なら被害に遭ったことがすぐ分かりますが、インフレによる目減りは通帳を見ていても気付きません。 しかも毎年少しずつ進むため、いつの間にか財布の中身が軽くなってしまう。 預金は元本(数字)を守ってくれても、購買力(価値)までは守ってくれないのです。
定期預金でもインフレには追いつかない
「それなら普通預金ではなく、定期預金にすればいいのでは?」と思われるかもしれません。 確かに最近は預金金利も上がってきました。以前のような「年0.001%」という、利息を計算するほうが電気代の無駄になりそうな時代ではありません。 2026年10月時点の大手銀行では、1年定期で年0.5%、10年定期なら1%を超える商品も出ています。
しかし、それでも現在の物価上昇率には届きません。 しかも預金利息には原則20.315%の税金がかかります。年1%の金利でも、手元に残るのは約0.8%です。
さらに10年定期となると、私の場合、満期を迎えるころには77歳になります。 「10年間預けて、やっと満期になったぞ!」と喜んでも、その時に物価がどれだけ上がっているかは分かりません。 将来のインフレ率によっては購買力を維持できる局面もあるかもしれませんが、少なくとも現在の金利と物価の上昇ペースを比べると、預金だけで資産価値を守り切るのは難しいと感じます。
それならS&P500やTOPIXで運用する
そこで資産運用という話になります。 私が中心に投資しているのは、S&P500に連動するインデックスファンドです。 S&P500は米国を代表する約500社で構成されており、米国株式市場全体の広がりに投資できます。
日本株で言えば、TOPIX(東証株価指数)も同じような考え方の指数です。 TOPIXは市場全体の時価総額をベースに算出されるため、特定の値かさ株の影響を受けやすい日経平均株価に比べ、市場全体の動きをバランスよく捉えられる特徴があります。
長期投資をするなら、こうした指数に連動する低コストのインデックスファンドが最も合理的だと考えています。どこか1社の株価が大暴落しても、それだけで資産全体が終わるわけではありません。
もちろん、S&P500にもTOPIXにも価格変動リスクがあります。 市場全体が下落すれば評価額も下がりますし、特にS&P500のような外貨建て資産は、円高が進むとドル建て株価が上がっていても円換算で目減りすることがあります(私も何度か経験しています)。
それでも長期間保有し続けることで、企業の利益成長や世界経済の拡大に伴い、預金を上回るリターンを期待できます。 (※ただし、インフレ率を上回る運用成績が約束されているわけではなく、過去の実績が将来も保証されるわけではありません。ここが元本保証の預金との大きな違いです。)
私の金融資産は「投資信託」と「預金」に分けている
では、私が資産のすべてをS&P500に投じているかというと、そうではありません。 現在、投資信託と、預金を分けて持っています。
しかも、預金のほとんどは定期預金ではなく「普通預金」です。 ここまで「預金は金利が低い」「インフレに負ける」と書いておきながら、そこそこの額を普通預金に置いていることになります。 一見矛盾しているようですが、私なりに明確な理由があります。
「預金には、お金を増やす役割を期待していないから」です。
銀行に預けているお金は、日々の生活費や予想外の出費に備えるための「クッション」です。 年金生活になると、会社員時代のように毎月決まった給料が振り込まれるわけではありません。家電が故障したり、車の修理が必要になったり、医療費がかさんだりすることもあります。 そんな時、いちいち投資信託を取り崩して解約するのは手間ですし、何より株価が下がっているタイミングで売却したくありません。
普通預金なら、必要な時にいつでも引き出せます。金利の低さと引き換えに、「いつでも使える利便性と安心感」を確保しているわけです。
暴落時に投資信託を売らずに済む
普通預金を持っているもう一つの大きな理由は、「資産の取り崩し期」に入っているからです。 現在、私は基本的に奇数月に10万円ずつ投資信託を売却して生活費に充てています。
ただし、これは絶対のルールではありません。 相場が大きく下がった時や為替の影響が大きい時には、売却を一時停止します。今年9月も為替の動向を考慮して売却を見送りました。
株式市場が暴落している最中に生活費目的で投資信託を売却すると、安値で多くの口数を手放すことになります。これをしてしまうと、将来相場が回復した際に資産残高が十分に戻らなくなってしまいます。
だからこそ、相場が悪い時には普通預金から生活費を出す。相場が回復したら、また投資信託の取り崩しを再開する。 こうした柔軟な立ち回りができるのは、手元に十分な普通預金があるからです。
もちろん、株価がいつ回復するかは誰にも分かりませんし、暴落が長引けば預金も減っていきます。それでも、「生活のために相場を無視して株を売らざるを得ない状態」を避けられるのは、年金生活者にとって精神的に非常に大きな安心感につながります。
ウォール街の投資家たちは、年金生活者の都合など考慮してくれません。だからこそ、自分の生活は自分で守る準備が必要です。
年金生活者は資産を増やすだけが目的ではない
若い世代が資産運用をするなら、「何十年も積み立てて大きな資産を作る」という目標があるでしょう。 しかし、67歳になった私の場合、少し考え方が異なります。
「今ある資産をどこまで増やせるか」ではなく、「これからの人生で、資産をどう心地よく使っていくか」がテーマになります。 以前から書いている通り、私の目標は82歳くらいで投資資産を使い切ることです。
もちろん予定通りにいかないことも多いでしょう。相場の波や今後の医療費・介護費など不確定要素はたくさんあります。 それでも、「お金を増やすこと」自体が目的になってしまっては、何のための老後資金なのか分からなくなります。
使うために貯めてきたお金です。 必要な時にはしっかり使い、残った資産にはできるだけ長く働いてもらう。 そのためのベストな組み合わせが、私にとっては「S&P500」と「普通預金」なのです。
結局、預金か運用か?
最初のテレビの問いに戻ります。 「預金か、それとも運用か」
私の答えは、「どちらも必要。ただし、任せる仕事が違う」です。
- 預金: 元本の安定性と高い流動性(いつでも使える安心)を確保する
- 投資: 価格変動リスクを引き受ける代わりに、インフレに勝つ長期的な成長を目指す
預金だけではインフレで確実に目減りします。かといって全額投資に回せば、暴落時に生活が破綻しかねません。

大切なのは、「当面使う予定のあるお金」を確実に確保した上で、残りの「余裕資金」を長期運用に回すことです。 そしてインフレに対抗する手段として、S&P500やTOPIXのような低コストのインデックス投資は、非常に再現性の高い選択肢だと考えています。
今の私にとって、預金は「安心して暮らすための防衛資金」。 S&P500は「少しでも長く資産を働かせるための成長資金」です。
預金には安全運転を、投資信託には長距離運転を任せる。 どちらも欠かせないパートナーですが、同じ仕事をさせる必要はありません。 年金生活者の資産運用は、これくらいシンプルな考え方で良いのではないでしょうか。


コメント