年金生活者が数字で見る日本 第4回 ふるさと納税

- ふるさと納税は本当に地方を救ったのか?

下根木時代は楽しみだった「ふるさと納税」

ふるさと納税。

この言葉を聞くと、私は少し複雑な気持ちになります。制度として考えると、疑問はあります。

でも、現役時代の私は、しっかり利用していました。

特に楽しみにしていたのが、北海道のホタテです。冷凍で届いたホタテを見ると、「これはいい制度だ」と、かなり都合よく思っていました。

仕事で疲れて帰ってきても、返礼品が届くと、ちょっとしたご褒美のような気分になったものです。今になって考えると、あれは「地方を応援している」というより、かなり正直に言えば「お得なお取り寄せ」でした。はもちろん、寄附先の自治体を選んでいるのだから、地方を応援していないわけではありません。

現役時代にふるさと納税で冷凍ホタテが届いて喜ぶ

でも、当時の私の頭の中で一番大きかったのは、地域振興よりも返礼品でした。そこは正直に認めます。

しかし、年金生活者になって、税金や社会保険料の通知をじっくり見るようになると、少し見え方が変わってきます。

ふるさと納税は、本当に地方を救っているのか。それとも、税金を使った全国お取り寄せ競争になっているのか。

今回は、総務省の「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和7年度実施)」をもとに見ていきます。この調査では、令和6年度のふるさと納税受入額や受入件数、募集に要した費用、住民税控除額などがまとめられています。

ふるさと納税は1兆円を超える巨大制度になった

まず、制度全体の規模です。

令和6年度のふるさと納税受入額は、全国で約1兆2,728億円。受入件数は約5,879万件です。

すごい金額です。もはや「ちょっとした地方応援制度」という規模ではありません。一つの巨大市場です。

平成20年度の受入額は約81億円でした。それが令和6年度には約1兆2,728億円ですから、単純に見ても150倍以上に膨らんだことになります。ここまで大きくなると、単なる善意の寄附というより、制度を利用した消費行動の一つと見た方が現実に近いでしょう。

利用者からすれば、実質2,000円の負担で、肉、魚、米、果物、日用品などがもらえる。それなら使いたくなるのは当然です。

ただ、数字を見ると、やはり考え込んでしまいます。

集めた1兆2,728億円のうち、募集費用が5,901億円

ふるさと納税で一番気になるのは、ここです。

令和6年度の受入実績は約1兆2,728億円ですが、その寄附を集めるために要した費用は、全国合計で5,901億円にのぼります。受入額に占める割合は46.4%。つまり、1万円の寄附を集めても、平均すると4,640円ほどが募集費用に使われている計算になります。

内訳を見ると、さらに考えさせられます。

  • 返礼品の調達費:3,208億円
  • 返礼品の送付費:733億円
  • 広報費:66億円
  • 決済費:218億円
  • 事務費等:1,676億円
  • ポータルサイト運営事業者への費用:1,656億円

ポータルサイト事業者に支払われた1,656億円というのも、なかなかの金額です。地方を応援する制度のはずが、その途中で大きな金額が民間プラットフォームへ流れている実態があります。

もちろん、サイト運営、決済、広告、システム維持、問い合わせ対応などに費用がかかるのは分かります。民間企業でも商品を売るには販売サイトの手数料がかかりますし、コストは発生します。

でも、これは税金に関係する制度です。自治体が寄附を集めるために返礼品を用意し、送料を負担し、ポータルサイトに手数料を払い、事務処理をする。そこまでして集めたお金のうち、自治体財源として残るのは53.6%です。

この数字を見ると、素直に「地方を救う制度です」と言い切るには、少し苦くなります。コーヒーなら良い苦味ですが、税金の苦味はなかなか濃いです。

民間企業なら、まず粗利を見る

私は現役時代、システム開発の営業を長くやっていました。売上が上がるのは大事ですが、民間企業なら売上だけでは喜べません。

売上が1億円あっても、原価や外注費、販売手数料、事務コストで9,000万円かかっていれば、残るのは1,000万円です。売上だけ見て「すごい」と言っていたら、経理から冷たい目で見られます。

ふるさと納税も同じです。「受入額が1兆2,728億円になりました」と聞くと、ものすごく地方にお金が入ったように見えます。しかし、募集費用が5,901億円かかっており、自治体財源として残ったのは6,826億円です。

もちろん、返礼品の調達費が地元企業に回るなら、地域経済への効果はあります。地元の農業、漁業、加工業者、梱包業者、配送業者にお金が回る面もあるため、単純に「費用は無駄」とは言えません。

しかし、制度全体として見ると、税金を動かすためにかなり大きな経費をかけているのは事実です。

  • 地方を応援する制度なのか
  • 自治体同士の返礼品競争なのか
  • ポータルサイトを含めた巨大な販売市場なのか

このあたりが、かなり曖昧になっているように感じます。

受け取る側は楽しい、でも自治体側は競争になる

ふるさと納税の利用者としては、とても分かりやすい制度です。

年収や家族構成に応じた上限額の範囲で寄附をする。返礼品を選ぶ。ワンストップ特例や確定申告で控除を受ける。実質負担は2,000円。そして家に肉や魚、米が届く。そりゃあ楽しいです。

しかし、自治体側から見ると、これは過酷な競争です。寄附を集めるために魅力的な返礼品を用意し、写真をきれいに撮り、ポータルサイトに掲載し、ランキングに載るよう工夫し、レビューを意識してリピーターを増やす。

これでは、自治体が地方行政をしているのか、通販事業をしているのか分からなくなる瞬間があります。

ここで、実際に都道府県ごとの受入額ランキングを見てみましょう。

ふるさと納税の受入額ランキング

順位 都道府県 受入額 受入件数
1北海道1,799.6億円9,632,234件
2宮崎県582.8億円2,956,129件
3兵庫県582.5億円1,331,429件
4福岡県560.0億円3,379,767件
5静岡県533.7億円2,937,904件
6山梨県458.8億円2,007,833件
7山形県449.4億円2,111,827件
8新潟県443.1億円1,477,329件
9鹿児島県430.5億円2,266,906件
10大阪府396.4億円1,702,586件
11茨城県391.3億円1,971,389件
12熊本県388.2億円2,050,984件
13佐賀県363.3億円1,971,282件
14愛知県346.1億円1,077,849件
15宮城県326.5億円1,700,844件
16長野県307.8億円1,511,004件
17岐阜県258.0億円1,126,268件
18岩手県242.8億円1,330,249件
19和歌山県229.6億円1,547,258件
20京都府228.0億円654,356件
21千葉県222.0億円1,013,335件
22神奈川県219.9億円548,465件
23福井県188.4億円878,447件
24栃木県176.9億円894,048件
25長崎県175.5億円767,485件
26滋賀県174.9億円519,334件
27愛媛県172.6億円1,088,735件
28沖縄県165.7億円460,371件
29高知県164.4億円1,090,233件
30東京都146.1億円154,321件
31石川県140.7億円543,489件
32秋田県135.9億円498,678件
33三重県134.6億円455,030件
34群馬県131.5億円534,167件
35岡山県127.6億円590,523件
36埼玉県123.5億円440,680件
37大分県118.2億円499,328件
38福島県103.3億円374,319件
39香川県98.6億円487,219件
40青森県88.4億円547,700件
41鳥取県75.3億円368,579件
42広島県70.7億円248,655件
43島根県68.4億円236,472件
44山口県52.4億円255,427件
45富山県46.4億円141,251件
46奈良県43.9億円188,011件
47徳島県43.3億円217,524件

※総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和7年度実施)」より。令和6年度の都道府県分と市区町村分の合計。受入額は百万円単位の公表値を億円換算。

ランキングを見ると、有名なブランド肉、海産物、果物、米などを擁する自治体や、強いブランド力を持つ地域が圧倒的に優位に立っていることが分かります。

一方で、魅力的な返礼品を用意しにくい自治体もあります。全自治体が同じ条件で対等に競えるわけではありません。特に、人口は多いものの地場産品が少ない都市部は、住民税が流出しやすい構造になっています。

住民税控除額は8,710億円

令和7年度課税におけるふるさと納税に係る住民税控除額は、全国で約8,710億円に達しています。控除適用者数は約1,080万人です。

利用者から見れば、「自分の税金の一部を、応援したい自治体に回せる魅力的な制度」です。しかし、住民が居住する自治体から見れば、本来入るはずだった住民税が流出していることを意味します。

都道府県ごとの住民税控除額ランキングは、以下の通りです。

ふるさと納税に係る住民税控除額ランキング

順位 都道府県 住民税控除額 控除適用者数
1東京都2,160.8億円2,001,079人
2神奈川県901.8億円1,043,007人
3大阪府689.7億円888,134人
4愛知県625.8億円776,406人
5埼玉県505.9億円677,467人
6千葉県482.9億円603,057人
7兵庫県411.3億円525,232人
8福岡県287.4億円398,089人
9北海道231.1億円347,993人
10静岡県189.0億円265,569人
11京都府176.6億円226,599人
12広島県147.4億円204,864人
13茨城県134.8億円186,859人
14岐阜県104.5億円152,338人
15宮城県103.4億円147,754人
16三重県95.1億円137,823人
17滋賀県90.8億円131,121人
18岡山県87.2億円133,260人
19栃木県85.9億円116,660人
20奈良県84.9億円113,282人
21群馬県83.9億円118,043人
22長野県79.9億円117,774人
23新潟県70.7億円110,525人
24石川県55.9億円84,094人
25熊本県55.6億円86,350人
26福島県51.5億円78,326人
27山口県50.8億円78,247人
28鹿児島県49.0億円77,013人
29愛媛県48.4億円70,553人
30沖縄県43.8億円67,738人
31香川県43.2億円66,284人
32長崎県41.8億円64,017人
33富山県40.2億円66,497人
34和歌山県40.0億円58,809人
35山梨県38.1億円52,595人
36大分県37.4億円56,843人
37宮崎県32.2億円51,643人
38福井県31.2億円52,179人
39山形県29.4億円48,563人
40青森県29.3億円48,634人
41岩手県28.9億円47,261人
42佐賀県28.3億円46,540人
43徳島県27.8億円41,584人
44秋田県21.3億円36,342人
45高知県20.2億円31,999人
46島根県18.9億円33,577人
47鳥取県16.4億円28,075人

※総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和7年度実施)」より。令和7年度課税における都道府県分と市区町村分の合計。住民税控除額は百万円単位の公表値を億円換算。

東京都をはじめとする都市部では、保育、教育、道路整備、ゴミ収集、防災、福祉といった日々の行政サービスを提供しています。そこに住む人が他の自治体へ寄附をすると、住んでいる自治体の税収は減ります。それでも住民はその自治体の行政サービスをそのまま利用するわけです。

これを「地域間の税収再配分」と見るか、「都市部の行政サービス財源を削る制度」と見るか。立場によって見解は大きく分かれます。

家計に例えるなら、「生活費の一部を親戚に渡してお礼の品をもらっているが、自分のおうちの修繕費が足りなくなっている」ような格好にも映ります。年金生活者の家計感覚からすると、ここにひとつの違和感を覚えます。

地方を救ったのか、返礼品競争を育てたのか

ふるさと納税は、地方にお金を届けたという意味で大きな効果をもたらしました。

特産品を持つ地域にとっては販路拡大になり、地域名を知ってもらうきっかけにもなりました。また、災害支援やクラウドファンディング型寄附など、本来の理念に沿った使われ方も広がっており、その点は高く評価されるべきです。

ただし、制度全体を見ると、やはり返礼品競争が巨大化しすぎた印象は否めません。

  • 集めた金額の46.4%が募集費用に消える
  • ポータルサイト事業者に1,656億円が支払われる
  • 返礼品や送料、事務費を差し引くと、自治体に残るのは53.6%

この数字を前にすると、「地方を救う制度」とだけ言うのは、少しきれいごとに聞こえてしまいます。

表側では利用者が楽しく品物を選び、その裏側では自治体が膨大な経費をかけて寄附を集め、都市部では税収が控除され、民間事業者に大きなお金が流れている。ふるさと納税は、善意、節税感、お取り寄せ、自治体間競争、地域産品の販促、税収の移動など、様々な要素が混ざり合った複雑な制度なのです。

公表と使途の「見える化」が大事

総務省の調査では、寄附金の活用状況の公表についても触れられています。

受入額実績と活用状況の両方を公表している団体は1,494団体(全体の83.7%)に上りますが、いずれも公表していない団体も45団体存在します。また、寄附者に対して事業の進捗や成果を報告している団体は894団体(全体の50.1%)にとどまっています。

ふるさと納税が本当に地方を救うための制度であるなら、単に「いくら集まりました」という実績だけでは不十分です。

  • どれだけ経費がかかったのか
  • どれだけ自治体の財源として残ったのか
  • どんな事業に使われ、どう成果が上がったのか
  • 寄附者にどう報告しているのか

ここまで見えて初めて、「地方を応援できた」と言えるのではないでしょうか。寄附者にとっても、返礼品を受け取って終わりではなく、自分のお金がどう役立ったか分かる方が、本来の趣旨に近いはずです。

もっとも、現役時代の自分を振り返れば、そこまで読み込まずに返礼品の到着日ばかり気にしていた気もします。

さいごに

ふるさと納税は、本当に地方を救ったのか。答えは簡単ではありません。

地方にお金を届け、地場産品を全国に広め、寄附者が応援したい地域を選べる仕組みをつくったのは事実です。

しかしその一方で、返礼品、送料、決済、事務費、ポータルサイト手数料に巨額の資金が使われています。1兆2,728億円集めても、募集費用が5,901億円かかり、自治体財源として残るのは53.6%です。

この数字を見る限り、ふるさと納税は「地方を救う制度」であると同時に、「税金を使った全国お取り寄せ競争」という側面を強く持っているように見えます。

制度そのものを全否定するつもりはありません。ただ、今後もこの制度を維持・展開していくのであれば、受入額の大きさだけでなく、

  • 「そのうち、どれだけが地域のために使われたのか」
  • 「どれだけが返礼品や手数料に消えたのか」
  • 「どんな事業に使われ、どんな成果があったのか」

といった実質的な成果とコストの透明性を、もっと高めてほしいと感じます。

ふるさと納税は「善意の寄附」であり、「便利なお取り寄せ」であり、「自治体間の競争」でもあります。この3つが複雑に混ざり合っているからこそ、この制度は分かりにくく、そして深く考えさせられるのです。

4回にわたって地方税について見てきました

4回にわたって、地方税について見てきました。

東京はお金さえあれば楽しい街
第1回 地方税について
都会と田舎の財政力ランキングを考える
第2回 財政力指数について
40代の頃、ヘビースモーカーでした
第3回 地方交付税について
現役時代にふるさと納税で冷凍ホタテが届いて喜ぶ
第4回 ふるさと納税について

年金生活者にとって、医療、介護、道路、ゴミ収集、防災など、日々の暮らしを支える地方自治はとても重要です。

その財源となる地方税や地方交付税、そしてふるさと納税の仕組みを知ることは、自分たちの暮らしが何によって支えられているのかを考えるうえで、とても有意義だと思います。

税金は、払うときには重く感じます。
しかし、その税金がどこで集まり、どこへ流れ、どのように使われているのかを知ると、少し違った見え方になります。

年金生活者だからこそ、国の大きな政策だけでなく、身近な地方自治のお金にも目を向けていきたいと思います。

― 年金生活者の白日夢 ―
年金生活での投資と資産の取り崩しや年金、健康保険に関すること。
すべて実体験のお話です。

 

※本記事は筆者自身の経験や調査に基づいて作成しています。 投資には価格変動などのリスクがあり、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
年金制度や健康保険制度、保険料・税金等の取り扱いは、法改正やお住まいの自治体、年齢、所得、家族構成などによって異なる場合があります。最新の情報については、年金事務所や自治体窓口等でご確認ください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言、税務相談、保険加入等を推奨するものではありません。
※本記事は、67歳の年金生活者である筆者自身の体験や調査をもとに執筆しています。
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