― お金持ちの自治体と、そうでない自治体のリアル
財政力指数を考えてみます
前回は、都道府県の地方税のデータを眺めながら、日本という国を「なんとなくの印象」ではなく、具体的な数字を通して客観的に捉えてみました。
第2回となる今回は、自治体の懐事情を示す「財政力指数」に焦点を当てていきます。
「財政力指数」――。名前からしていかにもお役所の資料に出てきそうな、眠気を誘うお堅い言葉です。
年金生活者が朝から読むには、少し濃いめのコーヒーが必要になるかもしれません。
しかし、この数字を紐解いてみると、これが意外に面白いのです。
なぜなら、都道府県ごとの「稼ぐ力」や「自前で行財政サービスをまかなう実力」が、驚くほどはっきりと見えてくるからです。
財政力指数とは何か?
財政力指数をものすごく大雑把にいえば、「標準的に入ってくるお金(地方税など)」で、「標準的に必要な行政サービスにかかるお金」をどれくらいまかなえているか、を示す指標です。
専門的には「基準財政収入額」を「基準財政需要額」で割った数値の過去3カ年平均を指します。
見方の基本は極めてシンプルです。
- 「1.0」に近いほど:自前の財源で行政サービスを過不足なくまかなえている状態。
- 「1.0」を超えると:非常に財政力が強く、財源に余裕がある状態(国からの地方交付税を受け取らない「不交付団体」になります)。
- 「0.3」前後に下がると:自前の税収だけでは標準的な行政サービスを維持することが難しく、国からの地方交付税に大きく頼らざるを得ない状態。
これを聞くと、私たちはつい「努力している県」と「努力が足りない県」という二元論で語りたくなります。
しかし、それは少し乱暴というものです。
人間で例えるなら、若い頃から大企業に勤めて退職金も企業年金も手厚い人と、地方で自営業を営みながらずっと地域を支えてきた人を、65歳時点の預金残高だけで比較して「努力が足りない」と切り捨てるようなものです。
そんなことを言われたら、たまったものではありません。自治体もこれと全く同じです。
財政力指数ランキング表
東京都の財政力指数が突出して高いのは、都庁の職員が毎朝5時から滝に打たれて修行しているからではありません。
企業や人口が圧倒的に集中し、所得が高く、固定資産も多く、消費も活発であるため、自然と「税
金が集まりやすい構造」が確立されているからに他なりません。
まずは、都道府県別の財政力指数をランキングで見てみます。
今回も前回同様、e-Stat(政府統計の総合窓口)のデータに基づいて作成したランキングを作成しました。
都道府県ごとの財政力指数に、人口、高齢化率、地方税収を並べた一覧表です。
東京は1.0を超える別格の財政力、黄色の県は0.3〜1.0の範囲、青色の県は0.3を下回る県として色分けしました。
数字だけで見ると冷たい表ですが、人口や高齢化率と並べると、東京集中と地方の厳しさがかなりはっきり見えてきます。
| 順位 | 都道府県 | 財政力指数 | 人口 | 高齢化率 | 地方税 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 東京都 | 1.211 | 14,178千人 | 22.7% | 44,612億円 |
| 2 | 愛知県 | 0.878 | 7,460千人 | 25.8% | 12,939億円 |
| 3 | 神奈川県 | 0.863 | 9,225千人 | 26.0% | 12,668億円 |
| 4 | 大阪府 | 0.754 | 8,757千人 | 27.6% | 13,555億円 |
| 5 | 千葉県 | 0.751 | 6,251千人 | 28.1% | 8,995億円 |
| 6 | 埼玉県 | 0.743 | 7,332千人 | 27.5% | 10,007億円 |
| 7 | 静岡県 | 0.683 | 3,527千人 | 31.2% | 5,352億円 |
| 8 | 福岡県 | 0.636 | 5,092千人 | 28.6% | 6,975億円 |
| 9 | 茨城県 | 0.636 | 2,806千人 | 30.9% | 4,683億円 |
| 10 | 兵庫県 | 0.622 | 5,337千人 | 30.2% | 7,673億円 |
| 11 | 栃木県 | 0.619 | 1,885千人 | 30.5% | 3,055億円 |
| 12 | 群馬県 | 0.610 | 1,890千人 | 31.1% | 3,105億円 |
| 13 | 宮城県 | 0.607 | 2,248千人 | 29.6% | 3,222億円 |
| 14 | 広島県 | 0.602 | 2,714千人 | 30.4% | 3,919億円 |
| 15 | 京都府 | 0.581 | 2,520千人 | 29.8% | 3,499億円 |
| 16 | 三重県 | 0.574 | 1,711千人 | 30.9% | 2,859億円 |
| 17 | 滋賀県 | 0.549 | 1,402千人 | 27.3% | 2,194億円 |
| 18 | 岐阜県 | 0.538 | 1,916千人 | 31.4% | 2,931億円 |
| 19 | 岡山県 | 0.529 | 1,831千人 | 31.2% | 2,547億円 |
| 20 | 長野県 | 0.527 | 1,987千人 | 32.9% | 3,090億円 |
| 21 | 福島県 | 0.519 | 1,743千人 | 33.7% | 2,906億円 |
| 22 | 石川県 | 0.498 | 1,098千人 | 30.7% | 1,779億円 |
| 23 | 新潟県 | 0.468 | 2,099千人 | 34.2% | 2,968億円 |
| 24 | 富山県 | 0.466 | 997千人 | 33.2% | 1,629億円 |
| 25 | 北海道 | 0.463 | 5,043千人 | 33.3% | 7,182億円 |
| 26 | 香川県 | 0.459 | 917千人 | 32.8% | 1,408億円 |
| 27 | 山口県 | 0.451 | 1,281千人 | 35.5% | 1,932億円 |
| 28 | 愛媛県 | 0.448 | 1,276千人 | 34.5% | 1,908億円 |
| 29 | 熊本県 | 0.423 | 1,697千人 | 32.6% | 2,185億円 |
| 30 | 福井県 | 0.421 | 739千人 | 31.8% | 1,315億円 |
| 31 | 奈良県 | 0.416 | 1,285千人 | 32.9% | 1,624億円 |
| 32 | 山梨県 | 0.403 | 791千人 | 32.0% | 1,289億円 |
| 33 | 大分県 | 0.391 | 1,085千人 | 34.4% | 1,522億円 |
| 34 | 沖縄県 | 0.380 | 1,466千人 | 24.2% | 1,841億円 |
| 35 | 山形県 | 0.374 | 1,011千人 | 35.6% | 1,429億円 |
| 36 | 岩手県 | 0.363 | 1,145千人 | 35.4% | 1,624億円 |
| 37 | 青森県 | 0.361 | 1,165千人 | 35.7% | 1,601億円 |
| 38 | 佐賀県 | 0.361 | 788千人 | 32.0% | 1,153億円 |
| 39 | 宮崎県 | 0.360 | 1,033千人 | 33.9% | 1,384億円 |
| 40 | 鹿児島県 | 0.357 | 1,532千人 | 34.2% | 1,998億円 |
| 41 | 長崎県 | 0.346 | 1,252千人 | 34.7% | 1,563億円 |
| 42 | 徳島県 | 0.336 | 685千人 | 35.7% | 1,026億円 |
| 43 | 和歌山県 | 0.329 | 880千人 | 34.5% | 1,173億円 |
| 44 | 秋田県 | 0.327 | 897千人 | 39.5% | 1,234億円 |
| 45 | 鳥取県 | 0.282 | 531千人 | 33.7% | 728億円 |
| 46 | 高知県 | 0.275 | 656千人 | 36.6% | 865億円 |
| 47 | 島根県 | 0.275 | 642千人 | 35.2% | 930億円 |
※地方税欄は、地方財政状況調査表の「標準税収入額等」を億円単位で表示。人口・高齢化率は2024年データ。
ランキングから見える「格差」とそれぞれの事情
予想通りというべきか、1位は東京都(1.211)です。
47都道府県の中で唯一「1.0」を超えており、その存在はまさに別格。
東京には大企業の本社が集まり、働く現役世代が溢れ、商業施設や高額な不動産がひしめき合っています。税収が自然と吸い上げられる仕組みが、これでもかと詰まっているのです。
続く上位には、愛知県、神奈川県、大阪府、千葉県、埼玉県が並びます。
トヨタを中心とする強固な製造業基盤を持つ愛知県。
東京のベッドタウンであり巨大な人口と産業を抱える神奈川県。
西日本の経済の中心である大阪府。
東京圏の一部として人口も経済活動も大きい千葉県、埼玉県。
経済活動の規模に比例した納得の顔ぶれです。
一方で、下位には島根県、高知県、鳥取県、秋田県、和歌山県などが並びます。
人口構造と「世帯家計」の共通点
各自治体の人口構造
しかし、ここで最も強調したいのは、「財政力指数が低い=ダメな自治体」では決してないということです。
下位の自治体に共通しているのは、「人口が少なく、高齢化率が高い」という点、そして「広大な面積や過酷な自然環境を抱えている」という点です。
- 人口が少ない。
- 高齢化率が高い。
- 山間部や離島が多い。
道路、医療、学校、消防、防災など、広い面積を少ない人口で支えなければならない。
そうなると、どうしても一人あたりの行政コストは高くなります。
たとえば、人口が多く企業も多い都市部なら、1本の道路、1つの病院、1つの学校を多くの人で使えます。
しかし、人口が少ない地域では、同じような行政サービスを維持するにも、利用者の数が少ない。
効率だけで見れば不利です。
年金生活者の家計で考えてみましょう
夫婦2人暮らしから、仮にどちらかが欠けてひとり暮らしになったとしても、冷蔵庫や洗濯機、エアコ
ンなどの家電製品はやはり必要ですし、基本料金もかかります。
人数が減ったからといって、生活維持費が綺麗に半分になるわけではありません。
自治体のインフラ維持も、まさにこれと同じ性質を持っています。
高齢化率も見てみると
この人口構造の差は、高齢化率の数字を見るとさらに浮き彫りになります。
財政力指数が最下位層に近い秋田県の高齢化率は39.5%、高知県は36.6%に達しています。
これに対し、東京都は22.7%、愛知県は25.8%にとどまります。
高齢化率が低い地域は、現役の納税者が多いため税収が入りやすい。
逆に、高齢化率が高い地域は、医療や介護、地域の交通維持など、むしろ「支出側」の社会保障負担が重くなります。
つまり、財政力指数というものは、単なる自治体のお財布事情ではなく、日本が抱える人口構造の歪みそのものを映し出す鏡なのです。
「数字の向こう側」にある暮らしに目を向ける
こうして見ると、東京を中心とする大都市圏は、人が集まり、企業が集まり、税収が集まり、さらにサービスが充実して人が集まるという「永久機関」のようにも見えます。
もちろん東京にも、高い住居費や満員電車、大規模災害リスクといった特有の弱点はありますが、現時点の財政的な優位性は揺るぎません。
だからといって、地方に対して「人口が減るのだから行政サービスも減らせ」と切り捨てるのはあまりにも冷酷です。
人が少なくても、そこには確かに日々の営みがあり、年金で暮らす先輩方がいて、命を守る病院や、冬の生活を支える除雪作業が必要です。

この数字は、地方の弱さを示すものではなく、「どれほど不利な条件の中で、住民の暮らしを守るために踏ん張っているか」を表す奮闘の記録として読むべきではないでしょうか。
私たち年金生活者は、日々の家計管理において、限られた年金収入の中から国保や介護保険料、固定資産税、医療費、食費などをいかにやりくりするかを常に意識しています。
その「家計を見る目」で都道府県の数字を眺めると、財政力指数は急に身近なものとして迫ってきます。
収入が多い家、支出が重い家、家族が増える家、高齢化が進む家――。
それぞれの自治体には、それぞれの切実な事情があるのです。
今回のデータを通じて私が一番強く感じたのは、「日本は一つの国だけれど、地域によって前提条件が全く異なる」という事実です。
東京の物差しで地方を語れば本質を見誤り、地方の物差しだけで東京を批判してもまた、見誤ってしまいます。
自分が暮らす地域の財政力や人口構造を知っておくことは、決して無駄ではありません。
なぜなら、私たちが毎日当たり前に利用しているゴミ収集、図書館、公民館、バス路線、そして防災体制のすべてが、この「財政の力」によって支えられているからです。
財政力指数は一見すると冷徹なインデックスに思えます。
しかし、その数字の向こう側には、必ず誰かのリアルな暮らしが存在しています。
数字を見ることで、日本の形が少しだけクリアに見えてくる。
――ただ、あまりに見えすぎると、今朝のコーヒーがいつもより少し苦く感じられるかもしれません。


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