国民健康保険の口座振替
- 難解なお役所文章に混乱した暑い日
会社を退職してから、健康保険を任意継続にするか、国民健康保険に切り替えるか。 以前、このブログでも何度か書きましたが、退職後の健康保険は、思っていた以上に面倒です。
会社員だった頃は、健康保険料も厚生年金保険料も、毎月の給料から自動的に引かれていました。 給与明細を見て、 「今月もずいぶん引かれているなあ」 とは思っていましたが、自分で納付書を持ってコンビニへ行く必要はありません。
文句を言う暇もなく、給料が銀行口座に振り込まれる前に、必要な金額はきれいに回収されていました。 会社員というのは、働いている間だけではなく、税金や社会保険料を納める場面でも、ずいぶん手厚く管理されていたのです。
ところが退職すると、そうはいきません。 「あなたは、これから自分で払ってください」 と、いきなり大人扱いされます。
私はすでに66歳。来月には67歳になります。
世間的には十分すぎるほど大人ですが、税金の納付書を前にすると、急に新入社員のような気分になります。
任意継続から国民健康保険へ切り替えた
私は退職後、しばらく会社員時代の健康保険を任意継続していました。 任意継続とは、退職したあとも、最長2年間、それまで加入していた健康保険を続けられる制度です。
ただし、会社員時代は会社と折半していた保険料を、退職後は原則として自分で全額負担します。 会社員時代の給与明細では片側しか見えていなかった保険料が、退職後には「完全体」となって襲ってきます。
毎月約3万円。 年間にすれば36万円です。 これを高いと見るか、安心料と見るかは人それぞれですが、年金生活者にとって毎月3万円は、決して「まあいいか」で済ませられる金額ではありません。
そこで、昨年は年金以外の収入が無い状態になった今年4月、任意継続から国民健康保険へ切り替えました。 手続きには、以前の健康保険を喪失したことを証明する書類が必要です。
ネットで資格喪失の手続きはできるのに、資格喪失証明書は郵送で届く。 デジタルとアナログが、互いに背中を向けながら同じ仕事をしているような制度です。
それでも無事に書類が届き、区役所で国保への加入手続きを済ませました。 その後、国保税の通知書と納付書も届きました。
初回の国保税は納付書で支払った
私の住む市の国保税は、7月から翌年3月までの9期に分けて納めます。 私のところに届いた第1期の納付額は3万3000円でした。
国保税は年間約19万円。 年間額だけを見れば、任意継続の年間約36万円より大幅に安くなりました。 もちろん前年の所得や世帯構成などによって金額は変わりますが、私の場合は国保へ切り替えて正解だったようです。
届いた納付書を持って、第1期分はきちんと支払いました。 ここまでは問題ありません。
ただ、これから毎月、納付書の期限を確認して支払うのは少し面倒です。 固定資産税、自動車税、国保税、介護保険料。 年金生活になると、働いていた頃より自由な時間は増えますが、なぜか納付書の種類も増えます。
しかも、それぞれ納付月が違います。 固定資産税は年4回。 自動車税は年1回。 国保税は9回。 介護保険料も別に来ます。
税金の支払い予定を並べると、家計簿というより、小規模な自治体の財政計画のようになります。
郵送された納付書の中にも、国保税は基本的に自動引き落としです。と書かれた用紙も同封されていました。
そこで私は、国保税も自動引き落としにしておこう。これなら払い忘れがありません。納付書を保管しておく必要もありません。
コンビニへ行って、レジの人に税金の納付書を何枚も差し出し、 「この人、ずいぶん税金を滞納していたのではないか」 と思われる心配もありません。 実際には期限内でも、納付書を何枚も持っているだけで、なぜか後ろめたい気持ちになります。
自動引き落としの書類をもらいに区役所へ
そこで、体温を超える暑さの中、区役所へ行きました。 目的は、国保税を銀行口座から自動引き落としにするための申込書をもらう。ただ、それだけです。
私は窓口で、 「国保税を口座振替にしたいので、書類をいただけますか」 とお願いしました。
すると担当者は冊子を取り出し、あるページを開いて説明してくれました。 そこには、赤い見出しで、こう書かれています。
「特別徴収(公的年金からの差し引き)による納付」
まず、「特別徴収」という言葉が出てきました。 特別徴収。 名前だけ聞くと、何か特別な事情があって、通常より厳しく取り立てられる制度のように感じます。
しかし、ここでいう特別徴収とは、単なる「年金天引き」です。 給料から税金を引く場合にも使われる言葉ですが、一般市民にとっては、 「年金から差し引きます」 と書いてくれた方が、はるかに分かりやすい。
役所はどうしても、分かりやすい日本語を見つけると、それを専門用語に変換したくなるようです。
3回目までは納付書、その後は年金天引き
担当者の説明によると、私は今年度の途中から国保へ加入したため、最初の3回分は納付書で支払います。
具体的には、
- 7月、8月、9月は納付書で支払う。
- 10月、12月、翌年2月は年金から差し引かれる。
ということでした。 したがって、口座振替の手続きは必要ありません。
私が区役所へ出向いた目的は、「自動引き落としの書類をもらう」でした。 しかし区役所で分かった結論は、「何もしなくても、年金から勝手に引かれるので大丈夫です」ということです。
私は自動引き落としの手続きをするために区役所へ行き、何もしないことを確認して帰ってきました。
役所の手続きには、ときどきこういうことがあります。 何かをするために出かけて、何もしなくてよいことを教えてもらう。 それでも、知らずに納付書を払い続けて二重払いになるよりは良かったのでしょう。
問題は、説明の文章がまったく頭に入らないこと
結論だけなら簡単です。 「9月までは納付書で払ってください。10月からは年金から引きます」 これだけです。
ところが、冊子の説明は、そう簡単には終わりません。
こちらに、冊子の関係する部分をアップしました。
ぜひ、一読してください。
まず、特別徴収の対象者について、次の3条件が書かれています。
- 世帯主が国保加入者で、世帯内の国保加入者全員が65歳から74歳までであること。
- 世帯主の特別徴収対象年金が年額18万円以上であること。
- 介護保険料と国保税の合計額が、対象年金額の半分以下であること。
さらに注釈が続きます。 2つ以上の年金を受給している場合は、地方税法の定める優先順位によって、どの年金から差し引くかが決まるそうです。
ここまで読んだ時点で、私はもう、自分が何歳だったのか分からなくなります。
65歳から74歳までという条件には入っている。 年金も年間18万円以上ある。 介護保険料と国保税の合計が年金の半分以下かどうかは、おそらくそうだろう。
しかし、「特別徴収対象年金」という言葉が登場したあたりから、文章が霧の中へ入っていきます。

私は年金をもらっている。 国保にも加入している。 介護保険料も払っている。 そこまでは分かります。
しかし、それを役所の言葉へ翻訳すると、急に自分とは関係のない制度説明のように見えてきます。
「仮徴収」と「本徴収」という二大難関
さらに文章は続きます。 年金からの差し引きは、4月、6月、8月の「仮徴収」と、10月、12月、2月の「本徴収」に分かれるそうです。
仮徴収。 本徴収。 この二つの言葉を見ただけで、理解する気力が半分ほど失われます。
仮徴収というからには、仮に取っておいて、あとで正式に徴収し直すのか。 それとも、仮に取ったお金は返してくれるのか。 本徴収になったら、本物の税金をもう一度払うのか。 初めて読む人なら、そう思っても不思議ではありません。
実際の意味は、それほど難しいものではありません。 新年度の国保税額がまだ決まっていない4月、6月、8月は、前年の金額などを参考に暫定的に徴収する。 年間の国保税額が決定したあと、すでに徴収した分を差し引き、残りを10月、12月、2月に徴収する。
要するに、「前半は概算、後半で精算」です。 これなら10文字ほどで済みます。
ところが役所の文章では、 「前年度2月の特別徴収額と同じ金額を仮の税額として年金から差し引き」 「前年所得と加入者数に応じて決定した年間の国保税額から、仮徴収で納めた国保税額を差し引き」 と続きます。
理解しようと一生懸命読んでいるうちに、前年度の2月と今年度の4月と今年度の10月が頭の中で混ざり始めます。 過去、現在、未来が一つの文章に同居しています。 もはや税金の説明ではなく、時間旅行です。
洗濯機の説明書も理解できなかった私
ここで思い出すのが、最近の洗濯機です。
私は長い間、IT業界で働いていました。 営業職ではありましたが、周囲にはプログラマーやシステムエンジニアがたくさんいました。 コンピューターの話を聞くことには慣れています。 昔は、自分は機械に弱い人間ではないと思っていました。
ところが最近、洗濯機の説明書を読んでも、よく分かりません。 「おまかせ」「念入り」「おしゃれ着」「槽洗浄」「予約」……ボタンはいろいろあります。
昔の洗濯機なら、洗濯物と洗剤を入れ、スイッチを押せば終わりでした。 今は、機械の方が私に問いかけてきます。 水量はどうするのか。 すすぎは何回か。 脱水時間はどうするのか。 風乾燥を使うのか。
私はただ、シャツと靴下を洗ってほしいだけです。 しかし洗濯機は、こちらに人生の選択を迫ってきます。
そんな私に、この国保税の説明書を理解しろというのは無理があります。
洗濯機なら、よく分からなくても「おまかせ」を押せば、たいてい何とかなります。 ところが国保税の冊子には、「おまかせ」ボタンがありません。 正確に言えば、今回の年金天引きこそ行政による「おまかせ」なのですが、それを説明する文章が最も難しいのです。
分かりやすく書けば3行で済む
今回の私に必要な説明は、次の3行です。
- 今年度の7月、8月、9月分は、納付書でお支払いください。
- 10月、12月、翌年2月分は、年金から差し引きます。
- 口座振替の手続きは必要ありません。
これなら、洗濯機に負け始めた66歳の私でも理解できます。
さらに親切にするなら、こうして表にすればよいのです。
| 支払月 | 支払方法 |
| 7月 | 納付書 |
| 8月 | 納付書 |
| 9月 | 納付書 |
| 10月 | 年金から差し引き |
| 12月 | 年金から差し引き |
| 翌年2月 | 年金から差し引き |
これを最初に大きく載せ、その下に、 「以下は制度の詳しい説明です。興味のある方だけお読みください」 と書けばいいのです。
ところが現実の冊子は、制度の条件、例外、注釈を先に読ませ、最後までたどり着いた人だけが、自分の支払い方法を理解できる構造になっています。 これは説明書というより、読解力試験です。
役所の文章が難しくなる理由も分からなくはない
もちろん、役所側にも事情はあるのでしょう。 国保税の金額や徴収方法は、年齢、所得、世帯構成、年金額、介護保険料、加入時期などによって変わります。
「誰でも10月から年金天引きです」と簡単に書けば、対象外の人から苦情が来ます。 例外を書かなければ、「そんな説明は受けていない」と言われます。 法律や条例に沿って、正確に説明する必要もあります。 そのため、条件と注釈が増え、文章が長くなります。 それは理解できます。
しかし、正確に書くことと、分かりにくく書くことは同じではありません。
最初に個人ごとの結論を示し、そのあとに制度の根拠を書く。 これだけで、ずいぶん読みやすくなります。
銀行のアプリなら、「次回の引き落とし日は8月31日です」と最初に表示されます。 そのあとに利用規約が続きます。 最初から利用規約だけを見せて、「あなたの引き落とし日を自分で判断してください」とは言いません。
行政の書類も、そろそろそのくらい利用者目線になってよいのではないでしょうか。
結局、私は何もしなくてよかった
こうして私は、自動引き落としの書類をもらうために区役所へ行きましたが、書類をもらわずに帰ってきました。
- 7月、8月、9月は納付書で支払う。
- 10月以降は年金から差し引かれる。
- 口座振替への変更はしない。
これで終わりです。 実際の手続きとしては、私は何もしなくてよいのです。
何もしなくても、国保税はきちんと年金から引かれます。 税金というものは、こちらが制度を理解できなくても、徴収だけは正確に行われます。
洗濯機は、操作を間違えると洗濯物がうまく洗えないことがあります。 しかし税金は、こちらが説明を理解できなくても、ほぼ間違いなく引かれます。 この点だけは、日本の行政システムは非常に優秀です。
できれば、徴収の正確さの一部を、説明の分かりやすさにも分けていただきたいものです。
お役所文章には「やさしい日本語版」が必要だ
最近、自治体では外国人向けに「やさしい日本語」を使う取り組みが広がっています。 難しい表現を避け、短い文章で、分かりやすく伝える方法です。 それはとても良いことだと思います。
ただし、やさしい日本語が必要なのは、外国人だけではありません。 私にも必要です。
洗濯機の説明書に敗北し、スマートフォンの設定画面で迷子になり、国保税の冊子を読んで自分が対象者なのか分からなくなる。 そんな日本人高齢者にも、やさしい日本語版を用意していただきたい。
例えば、今回の説明なら、こうです。
あなたは、今年10月から国保税が年金から引かれます。
7月から9月までは、納付書で払ってください。
口座振替の申し込みは必要ありません。
この3行の下に、小さく「制度の詳しい説明を読みたい方はこちら」と載せればよいのです。
たぶん、詳しい説明を開く人は、区役所の担当者と税理士と、この制度をブログに書こうとしている私くらいでしょう。
まとめ 理解できなくても、国保税は引かれる
今回、国保税の口座振替を申し込もうとして区役所へ行った結果、分かったことは次のとおりです。
- 国保へ切り替えた初年度は、最初の3回分を納付書で支払う。
- その後は、年金支給月に国保税が自動的に差し引かれる。
- 年金天引きで問題なければ、口座振替の申込手続きは必要ない。
結論だけなら非常に簡単です。 しかし、それを説明する冊子は、「特別徴収」「普通徴収」「仮徴収」「本徴収」という専門用語の四天王を繰り出し、読者の理解力を試してきます。
私はIT業界で40年以上働きました。 それでも、最近は洗濯機の説明書に苦戦しています。 そんな私が、この文章を一読して理解できるはずがありません。
区役所の担当者が口頭で、 「3回目までは納付書で、その後は年金から引かれます」 と説明してくれたので、ようやく分かりました。
つまり、この冊子は「説明する人が横にいなければ理解できない説明書」なのです。
これからは、国保税の冊子にも、洗濯機と同じように大きなボタンを付けてほしいものです。
「詳しい説明」
「例外事項」
そして最後に、最も大切なボタン――
「結局、私はどうすればいいの?」
私の場合、その答えはこうでした。 「9月までは納付書。10月から年金天引き。私は何もしなくてよい。」
最初から、そう書いといてください。



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