テレビが100万円だった時代

- 「高くなる家電」の不思議

私にも幼い頃がありました

私が幼い頃の話です。

不思議に思われるかもしれませんが、私にもちゃんと幼い頃がありました。

昭和40年前後、まだ5歳くらいだった頃のことです。

我が家に初めてテレビがやってきました。

もちろん白黒テレビです。

今の若い人は「白黒テレビ」を写真でしか見たことがないかもしれませんが、本当に画面が白と黒しかありません。人の顔色も分からないし、野球中継を見てもユニフォームの色は全部想像です。

ところが、そのテレビが我が家に来た理由が少々情けない。

最初にテレビを買ったのはお隣さんでした。

私は毎日のようにお隣へテレビを見に行き、番組が終わっても帰ろうとしない。

「家に帰りなさい」

と言われても、

「帰りたくない!」

と泣いていたそうです。

今なら立派な不法占拠です。

幼い頃お隣のテレビを占領

あまりに可哀想に思ったのか、親がテレビを買ったのだと、大人になってから何度も聞かされました。

もっとも、親としては近所への体裁もあったのかもしれません。


昭和40年のテレビは今ならいくらなのか

せっかくなので調べてみました。

昭和40年(1965年)頃の白黒テレビ(19インチ)の価格は約7万円。

一方、当時のカラーテレビは約20万円だったという記録があります。

ここで驚くのは金額です。

日本銀行などの資料を参考にすると、1965年の1万円は現在の消費者物価指数ベースで約4.2万円程度に相当します。

当時の大卒初任給(約2.4万円)などの「肌感覚(賃金水準)」で比べると約9倍〜10倍に相当します。

ここでは、一般的な物価(消費者物価指数)ベースで計算してみましょう。

  • 白黒テレビ(7万円) → 現在の価値で約30万円
  • カラーテレビ(20万円) → 現在の価値で約85万円

もし当時の初任給を基準(約9倍)にするなら、カラーテレビは180万円クラスの超高級品だったことになります。

いずれにせよ、100万円前後の価値があったテレビ。今なら100インチの大型テレビを買ってもお釣りが来ます。

昔は電化製品そのものが高級品だった

当時はテレビだけではありません。

有名な「三種の神器」と呼ばれた、

  • 冷蔵庫
  • 洗濯機
  • テレビ

もそうですし、

その後の「新・三種の神器」と言われた、

  • カラーテレビ
  • クーラー
  • カー(自動車)

も高嶺の花でした。

今の若い人に、 「昔はクーラーがある家はお金持ちだった」 と言っても信じてもらえないかもしれません。

当時のクーラーは今のエアコンと違い、文字通り「冷やすだけ」のものが主流でした。

暖房機能もなければ省エネ機能もない。

それでも十分に贅沢品でした。

近所でクーラーの室外機を見つけると、

「あそこの家はお金持ちだ」

と言われる時代だったのです。


どうして昔は高くても安くなったのか

昔の家電が高かった理由は単純です。

まず技術が未成熟でした。

  • 部品は高い
  • 不良品も多い
  • 大量生産もできない

つまり作るだけで大変だったのです。

ところが日本企業はこの状況を変えました。

日本企業が得意だった「大量生産で安くする技術」

私が若い頃、日本の家電メーカーは世界最強でした。

  • 松下電器(現パナソニック)
  • ソニー
  • 東芝
  • 日立
  • シャープ

などが世界市場を席巻していました。

彼らが得意だったのは、

「高性能な製品を大量生産して安くする」

ことです。

技術を改良し、

製造工程を効率化し、

不良率を下げ、

大量生産する。

すると価格が下がる。

だから昔の製品は、

高い

普及する

安くなる

という流れでした。

日本人にとっては当たり前の光景でした。


ところが今は逆になった

最近の製品を見ていると不思議です。

むしろ、

安い

高機能化

高くなる

という流れになっています。

車などが典型例でしょう。

モデルチェンジのたびに値段が上がる。

家電も同じです。

なぜでしょうか。

理由① 最初から高性能になった

昔のエアコンは、

  • うるさい
  • 電気を食う
  • 冷えるだけ

でした。

しかし今の廉価モデルですら、インバーターによる高い省エネ性や静音設計などが標準搭載されています。

少し上の機種になれば、AI制御や人感センサーまで付いてくる。

昔なら高級機にしか付いていなかった、あるいは存在すらしなかった機能です。

つまり、スタート地点がすでに高性能。

だから昔のように「安く単純な製品」が少なくなったのです。

理由② 私たち自身が贅沢になった

これも大きいと思います。

昔は、

「テレビが家にある」

だけで十分幸せでした。

しかし今は、

  • 高画質
  • 高音質
  • 省エネ
  • 安全
  • 長寿命

を当たり前のように求めます。

メーカーも高付加価値化しないと利益が出ません。

結果として価格も上がります。

理由③ 海外で安く作る時代が終わりつつある

昔、中国や東南アジアは人件費が非常に安かった。

だから日本企業は海外生産によって価格を下げられました。

ところが今は違います。

中国の技術者や工場労働者の給料は大きく上昇しました。

職種によっては日本人以上です。

さらに、

  • 円安
  • 原材料高
  • 輸送費高騰
  • 半導体不足

などが重なりました。

もはや、

「海外で作れば安い」

という時代ではなくなってきています。

理由④ 安売り競争をやめたメーカー

昔の日本企業はシェア第一主義でした。

利益が少なくても大量販売。

しかし今は人口減少社会です。

売れる台数が伸びません。

だから企業は、

パナソニックの「指定価格制度(値引き販売を禁止し、高くても価値あるものを売る仕組み)」のように、

「高くても利益が出る商品」

を売る方向へ進んでいます。

理由⑤ 円安とインフレ

そして最後は避けて通れません。

鉄、アルミ、銅、半導体、原油。

どれも値上がりしています。

さらに円安です。

世界では賃金も上がっています。

しかし日本は賃金上昇が比較的緩やか。

その結果、

「給料はあまり増えないのに、製品だけ高くなる」

という状態になっています。

だから私たちは昔より高くなったと強く感じるのです。


今の中国メーカーは昔の日本そのもの

実は安い製品がなくなったわけではありません。

テレビやモニター、スマホなどを見ると、

Hisense
TCL
Xiaomi

などの中国メーカーが存在感を高めています。

彼らがやっていることは、かつて日本企業が得意だったことそのものです。

  • 性能は十分
  • 大量生産
  • 低価格

まさに昭和から平成にかけての日本企業の姿です。


歴史は繰り返す

日本はかつてアメリカから、

「物まね」

などと揶揄されたり警戒されたりしながらも、

技術を磨き、

品質を高め、

小型化し、

耐久性を向上させ、

大量生産によって世界市場を席巻しました。

そして今度は、その日本を中国や韓国、台湾の企業が研究し、追い上げ、ある分野では追い抜いています。

これは悔しい話でもあります。

しかし見方を変えれば、日本がかつて世界のお手本だった証拠でもあります。

私が幼い頃、近所中の子どもたちが一台の白黒テレビに集まっていた時代から60年。

技術は信じられないほど進歩しました。

しかし、その進歩の仕方は昔とは少し変わったようです。

「高かったものが安くなる時代」から、

「便利さと快適さを求めて高くなる時代」へ。

そんな時代の変化を、昭和生まれの私は少し複雑な気持ちで眺めています。

※本記事は、筆者自身の経験や調査に基づく情報提供を目的として作成しています。
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