- 消費税減税のタイミングで本体価格が上がるとどうなる
前回のお話の振り返り
前回は、食品の消費税が8%から1%になった場合、我が家のような年金生活夫婦の家計がどの程度楽になるのかを計算してみました。
一般的な高齢夫婦世帯の食費で試算すると、年間の負担軽減はおよそ5万円。
国民健康保険税や介護保険料の上昇を考えると実質的な家計改善はそれほど大きくありませんが、それでも「食品減税そのものはありがたい」というのが前回の結論でした。
ただし、あの計算には非常に大きな前提がありました。
「食品そのものの本体価格が変わらないこと」です。
例えば、
- 税抜100円の商品
- 現在(8%): 108円
- 来年4月(1%): 101円
これなら非常に分かりやすく、誰もが「7円安くなった!」と実感できます。
ところが電卓を叩きながら、私はどうも「世の中そんなに単純にはいかないのではないか」という気がしてきました。
この数年、何度「企業努力」という言葉を聞いただろう
ここ数年、食品メーカーの値上げニュースを何度見てきたでしょう。
ニュースを見るたびに、
「原材料価格の高騰」
「物流費の上昇」
「エネルギー価格の高騰」
「人件費の上昇」
という言葉が並びます。
そして最後に必ず、
「これまで企業努力により価格を維持してまいりましたが……」
と続く。
私はこの言葉を聞くたび、「企業努力って、一体どこまで頑張ればいいんだろう」と思っていました。
商社も、メーカーも、卸も、スーパーも、物流会社も頑張る。
みんなが限界まで踏ん張って、最終的にスーパーの棚に100円の商品が並んでいるわけです。
しかし、当然ですが企業努力にも限界があります。あらゆるコストが上がっている中で、販売価格だけを永久に据え置くことはできません。
そして私は、「食品消費税が1%になる来年4月こそ、抑え込んできた本体価格の一斉見直しが行われやすいタイミングなのではないか」と思っています。
どうせ4月にはシステムを変更する
消費税率が8%から1%に変わる――。
これはスーパーのレジをちょっと設定変更して終わり、という話ではありません。
- 商品の価格マスター
- POSレジシステム
- 会計システム・請求書
- ECサイト・カタログ
- 店頭の値札・チラシ・ポスター
これらをすべて変更する必要があります。当然、企業にはシステム修正費や印刷費など、一時的な経費が発生します。
そう考えると、企業側が
「どうせ価格関連のシステムを全面的に修正するなら、この機会にずっと耐えてきた本体価格も見直そう」
と判断するのは、むしろごく自然な流れではないでしょうか。
原材料費も人件費も物流費も上がっていて、さらに税制変更の対応コストまでかかる。
それなのに「本体価格は一切変えません」と言われたら、私は逆に「今までどれだけ利益を削っていたんだ……」と心配になってしまいます。
本体価格が上がったら店頭価格はどうなる?
では、実際どれくらい本体価格が上がると、私たちの減税効果が消えてしまうのか。
現在「税抜100円(税込108円)」の商品をモデルに計算してみます。
① 本体価格が 4% 上がった場合(100円→104円)
- 104円 × 1.01 = 約 105円
- 現在(108円)と比べると「約3円安い」
- 確かに安くはなっていますが、「税率が7ポイント下がった」という大ニュースの印象からすると、少し物足りなく感じます。
② 本体価格が 5% 上がった場合(100円→105円)
- 105円 × 1.01 = 約 106円
- 現在(108円)と比べると「約2円安い」
- 1品あたり2円程度の差だと、スーパーの値札を見ても減税効果をほとんど実感できないかもしれません。
③ 本体価格が 8% 上がった場合(100円→108円)
- 108円 × 1.01 = 約 109円
- 現在(108円)と比べると「約1円高い!」
- なんと、消費税率は8%から1%へ下がったのに、店頭価格は前より高くなってしまいます。
一目で見るとこうなる(本体価格の上昇と店頭価格の変化)
現在の税込価格108円(税抜100円)の商品が、消費税1%化と同時に値上げされた場合のシミュレーションです。
| 本体価格の変化 | 税抜価格 | 1%後の税込価格 | 現在(108円)との比較 |
| 変化なし(0%) | 100円 | 101.00円 | 約7円 安い(理想的) |
| +4% 上昇 | 104円 | 105.04円 | 約3円 安い |
| +5% 上昇 | 105円 | 106.05円 | 約2円 安い |
| +7% 上昇 | 107円 | 108.07円 | ほぼ変わらない |
| +8% 上昇 | 108円 | 109.08円 | むしろ約1円 高い! |
つまり、食品の本体価格が平均で約7%上がれば、消費税減税(7ポイント減)の効果はほぼ帳消しになるということです。
前回の記事で「一般的な高齢夫婦なら年間約5万円の負担軽減になる」と計算しましたが、それはあくまで「本体価格が1円も上がらない」という理想郷の話。
もし本体価格が平均5%程度上がれば、年間5万円という減税効果の大部分は消えてなくなります。
でも「値上げ=悪」ではない
ここで誤解してはいけないと思っています。
食品メーカーが本体価格を上げたからといって、「減税に便乗して値上げしたズルい企業だ!」と単純に批判するのは違うはずです。
むしろ、これまで本当に限界まで企業努力で価格を抑えてきたのなら、適正な価格転嫁は社会にとって必要です。
企業にも働く従業員がいます。利益が出なければ、給与も上げられませんし、設備投資もできません。物流会社に適正な運賃を払うことも、農家や生産者から適正価格で買い取ることもできなくなってしまいます。
「値上げ=悪」として企業を叩き、10円値上げするだけで謝罪会見のような頭を下げる社会より、適正に価格が上がり、そこで働く人の給与も上がっていく社会の方が健康的です。

……ただし。
「給与が上がる現役世代」ならそれで良いのですが、「上がらない年金で暮らしている私たち」からすると、「商品は値上がりし、減税効果も消えました」となると、やっぱり財布は痛い。ここが年金生活者の切実で複雑なところです。
減税分はどこへ消えたのか?
もし来年4月、消費税が1%になってもスーパーの支払額があまり変わらなかったとしたら――。
消費者は「国がくれたはずの年間5万円の減税分は、一体どこへ行ったんだ?」という気持ちになるでしょう。
しかしそれは、企業に減税分を横取りされたわけではありません。
これまで限界まで耐えてきた食品メーカーや物流会社の「コスト上昇分」を補うために使われ、回り回ってそこで働く人たちの人件費や経済の循環に回った、ということです。
そう考えると、今回の「食品消費税1%」という政策は、「消費者の財布を直接温める政策」になるか、それとも「値上げに耐えてきた食品業界を救うクッション(緩衝材)になる政策」になるかの瀬戸際にあると言えます。
私は4月の「本体価格」に注目しています
前回の第一弾では「税率だけが下がる理想的な世界」を計算しました。
そして今回の第二弾では「本体価格が上がれば、年間5万円の減税効果は簡単に消える」という現実的な話をしました。
私自身は、減税効果の多くは本体価格の上昇によって相殺される可能性が高いと思っています。
だからこそ来年4月、私が注目したいのは「消費税が何%になったか」ではありません。
「スーパーの商品の本体価格(税抜表示)がいくらになっているか」です。
100円だったお惣菜や牛乳が、104円になっているのか、105円になっているのか、それとも108円になっているのか。そこを見ない限り、本当の減税効果は分かりません。
そして話はここで終わりません。
今回の食品消費税1%は、永久に続くわけではありません。「2年間限定」の緊急措置という予定になっています。
もし、この2年間で食品の本体価格が5%上がり、商品が「税抜105円」になったとしましょう。
その状態で2年後、消費税率を再び「8%」に戻したらどうなるでしょうか?
- 105円 × 1.08 = 113.4円
元々108円だった商品が、2年後には113円オーバーになります。
果たして、そんな恐ろしいことを政治や社会はスムーズに実行できるのでしょうか?
次回、第三弾のテーマは、
「2年後に消費税を8%へ戻せるのか?〜戻した瞬間にやってくる本当の物価高〜」
です。
電卓を叩けば叩くほど、2年後の世界が心配になってきました。次回も一緒に考えてみたいと思います。


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