- 世界ヒューマノイドロボット競技大会を見て感じた事
ベッドで寝て見ていたロボット運動会
先週金曜日にコロナに罹患し今日で5日目。昨日あたりからようやく熱も引き、起き上がれるようになりました。 「コロナはもうなくなったの?」と言われることもありますが、2024年の記録では、
- コロナ関連の年間死亡者数:3万5,865人
- 交通事故死者数:2,663人
と、実は交通事故の13倍以上も死亡者が出ている恐ろしい病気です。皆様もどうぞご自愛ください。
さて、伏せっている間、ベッドでテレビを見ていると中国で開催されている「ロボット運動会」の映像がよく流れていました。 人型ロボットが100mを走る。 400mを走る。 サッカーをする。 卓球をする。

ところが、まだ人間のように器用にはいきません。 走っていたロボットが突然、ドテッ! カーブを曲がりきれず、ガシャーン! サッカーではロボット同士がぶつかって、仲良く倒れる。
見ている分には、確かに面白い光景です。 するとネットでは必ずと言っていいほど、 「やっぱり中国(笑)」 「こんなの使い物にならない」 「日本のロボットのほうが精密だろう」 なんて声が上がります。
私は、そういう映像を見るたびに逆のことを考えます。 これ、笑っている場合なのだろうか。 むしろ恐ろしいのは、中国が世界中の人の前で、これだけ大量にロボットを失敗させていることではないでしょうか。
もはや単なる「ロボットの運動会」ではない
2026年8月、北京で開催された世界ヒューマノイドロボット競技大会には、世界16の国と地域から666チーム、2,000台を超えるロボットが参加しました。前年より規模は大幅に拡大しています。
100mや400mといった陸上競技だけではありません。 ケーブルを接続する。 荷物を運ぶ。 物を仕分けする。 飲食店で作業する。 工場を想定した仕事をする。 つまり、人型ロボットを実際の社会で働かせるための実験が始まっているのです。
競技の4割以上は、遠隔操作ではなくロボット自身が判断して動く完全自律型だと報じられています。 これはもう、「ロボットに運動会をさせて遊んでいる」という話ではありません。 巨大な実証実験場なのです。
ロボットは転ぶことで何を得るのか
もちろん、ロボットが一度転んだからといって「あ、痛かった。次から気をつけよう」と人間のように反省するわけではありません。そこは少し正確に捉える必要があります。
なぜ転んだのか。 足をどこに置いたのか。 重心がどう動いたのか。 モーターにどれだけ負荷がかかったのか。 カメラやセンサーは何を認識していたのか。 そのときAIはどんな判断をしたのか。
そこには大量のデータが残ります。 技術者はそれを持ち帰り、原因を調べ、制御方法を変え、シミュレーションを行い、また実機を動かす。 そして、また転ぶ。 また直す。 また走らせる。 そうやって少しずつ転ばなくなっていくのです。
私たちがテレビで見て「ドテッ!」と笑っている1回の転倒も、開発者にとっては非常に価値のある実験結果なのです。
去年笑われたロボットが、今年は人間より速い
進歩の速度を見ると、さらに驚かされます。 2025年にはまだぎこちなく走っていたロボットが、2026年大会では100mで9秒台を記録するまでになりました。400mでも人間の世界記録を上回るタイムが出ています。
もちろん「人型ロボットが人間より優れたアスリートになった」という意味ではありません。 走ったあとに止まれず転倒したり、壁に激突したりする。速く走れるのに、ケーブル1本をうまく差し込めないこともある。 人間から見れば、「100mを9秒で走れるのに、コンセントも差せないのかよ」となります。
でも、そこが重要です。 100mを速く走る技術、小さな物をつかむ技術、散らかった部屋の中で安全に歩く技術には、それぞれ別の難しさがあります。そして、その一つひとつを猛烈な速度で埋めているのです。
去年できなかったことが、今年できる。 今年できないことが、来年できる。 この積み重ねです。
アメリカではロボットが家庭へ入ろうとしている
一方、アメリカでは別の方向から人型ロボットが近づいてきています。 1X社の家庭用ヒューマノイドロボット「NEO」です。 目標は工場ではありません。私たちの「家」です。
掃除、洗濯、片付け、物を運ぶ、人間との会話。 まだ何でも完全自律でできるわけではありません。難しい作業では、人間のスタッフが遠隔支援する仕組みも使われます。 これを見て「なんだ、人間が操作しているのか」と笑う人もいるでしょう。
しかし私は、ここでも逆に考えます。だからこそ怖い、と。 「できないから販売しない」「100点になるまで研究所から出さない」ではないのです。 まず使う。 人間が助ける。 データを取る。 改善する。 また使う。 中国のロボット運動会と、やっていることの本質は同じです。
月8万円の家政婦ロボット
NEOには月額499ドルのサブスクリプションプランがあります。 日本円にすれば現在およそ月8万円。高い。 年金生活のわが家なら、「はい、終了」です(笑)。
しかし、私はこの金額だけを見て「そんなもの普及しない」とは思いません。 液晶テレビも高かった。 パソコンも高かった。 携帯電話も高かった。 デジタルカメラも高かった。 技術製品は量産されれば価格が下がります。 月8万円が5万円になり、5万円が3万円になる。10年使える買い切り型なら、また計算も変わってきます。
昔聞いた「東南アジアでメイドを雇う老後」
先日のブログで書きました。 「定年になったら仕事はすっぱり辞める」 「日本にも住むけれど、1年の半分くらいは東南アジアに行く」 「シンガポールかタイかフィリピンで豪邸を借りて、メイドを雇って暮らすんだ」 「年金があれば、それくらいできるよ」
当時は、そんな老後も本当にあり得たのでしょう。 しかし今は東南アジアの物価も賃金も上がりました。「日本人が年金を持っていけば王様のように暮らせる」という時代ではなくなっています。
ところが、家庭用ロボットが普及したらどうでしょう。 安い住宅を借り、そこにロボットが1台。 「掃除して」 「洗濯して」 「荷物が届いたよ」 「冷蔵庫から水を取って」
そして高齢者なら、 「薬の時間ですよ」 「今日は病院の日です」 「床に物が落ちています」 「転倒を検知しました。家族に連絡します」
ここまで来たら、家政婦+見守り+介護補助+話し相手です。 昔の社長さんが夢見た老後が、人間のメイドではなくロボットによって復活する――そんなことだってあるかもしれません。 私なら最後に、「コーヒー淹れて」を追加しますが(笑)。
ところで、日本のロボットはどこにいる?
ここまで書くと、いつもの私だと「中国やアメリカはすごい。それに比べて日本は……」という話になりそうです。 ところが今回、非常に嬉しいニュースがありました。
北京の大会に、日本から唯一参加した企業がありました。GMOインターネットグループです。 ロボットの愛称は「ひとみん」。かわいい名前です。 本体は中国のUnitree製ですが、GMOが独自に走行制御技術を開発し、日本代表として大会へ乗り込みました。
「ひとみん」、走る
400m予選。 中国勢の高速ロボットに比べれば、決して速くはありません。 しかし「ひとみん」は自分のレーンを守りながら、一歩、また一歩と着実に走りました。
そして、ゴール! 会場から大きな拍手が湧き起こります。
その直後、ドテッ。倒れました。 まるでマラソンランナーがゴール後に力尽きたようです。頭部まで故障してしまいました。
ところが、これで終わりではありません。 400m予選は10位で通過。GMOの技術者は「ひとみん」を修理し、準決勝へと送り出しました。 今度は途中で転倒し、完走できませんでした。また失敗です。
それでも終わらない。 1500mにも出場し、今度は見事に完走しました。
私はGMOに拍手を送りたい
私はこの話を知って、GMOをものすごく評価したくなりました。
中国勢に勝てる保証などありません。転倒するかもしれない、故障するかもしれない。その様子が世界中に流れ、日本代表が途中で倒れれば「日本のロボットは大したことないね」と言われるリスクだってあります。
だったら、「まだ研究段階なので今回は参加を見送ります」という選択もできたはずです。そのほうが安全ですし、企業イメージも傷つきません。
でもGMOは違った。 持っていった。 走らせた。 転んだ。 壊れた。 直した。 そして、また走らせた。
これですよ。今回私が書きたかったのは。
日本人だって、ちゃんと転べるじゃないか
中国のロボットが転ぶのを見て、「やっぱり中国(笑)」と言う人がいる。 でも日本から唯一参加した「ひとみん」も転びました。
それでいいのです。いや、それがいいのです。
失敗しなければ分からないことがある。研究室では起きなかった問題が本番で起きる。 モーターが熱くなる。 カーブでバランスを崩す。 長距離では制御が変わる。
それを経験したGMOは、参加しなかった企業より確実に多くのものを持ち帰ったはずです。 中国製のロボットに日本企業が制御技術を載せ、北京で競争し、転び、現地観客から拍手を受ける。私はこの姿こそ、これからの技術開発のあり方だと思います。国籍だけで囲い込む時代でもないのでしょう。
笑っている側と、転んでいる側
中国のロボットが転ぶ。 日本人がネットで笑う。 中国の技術者は原因を調べる。 翌日また走らせる。
そして今回、その隣で日本のGMOもロボットを走らせ、転び、直し、また走らせました。
私は笑っている側より、転んでいる側にいたい。 なぜなら、今転んでいるロボットは、来年には転ばなくなっているかもしれないからです。
一番怖いのは、中国のロボットが転んでいることではありません。ものすごい勢いで起き上がっていることです。 そして今回、その横で日本の「ひとみん」も、ちゃんと起き上がりました。
GMOには、素直に拍手を送りたいと思います。


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