失敗の尻ぬぐいは、いつも国民 【前編】

- 円安・物価高・決められない政治 

円安が止まりません。

円安が止まりません。
円安が進めば、海外から輸入する原油、天然ガス、小麦、飼料、肥料、食用油などの価格が跳ね上がります。
運送費が上がり、電気代が上がり、食品価格が上がる。

スーパーへ行けば、以前と同じ商品なのに値段が高くなっている。
価格を据え置いていると思ったら、内容量がこっそり減っている。

最近では、商品袋を持った瞬間に分かります。「軽いな」と。 私の筋力がついたのではありません。中身が減ったのです。

年金が多少増額されても、物価上昇には追いつきません。現役世代も「賃金が上がった」と言われますが、税金や社会保険料を差し引いた「手取り」で考えると、生活が急に豊かになったと実感できる人は多くないでしょう。

こうした状況下で、政府は食料品の消費税をどうするか、長い間議論を続けてきました。 0%にするのか、1%にするのか。期間は1年か、2年か。直接給付か、給付付き税額控除か。財源はどうするのか――。

会議を開き、資料を作り、専門家の意見を聞き、各党が主張し、また会議を開く。 その間にも、食品価格は上がり続けています。

物価高対策を何カ月も議論した末に、ようやく打ち出された方針も、実施は「来年」といった先の話です。スーパーのレジで「政府が検討中なので、この値上げは来年まで待ちます」と言ってくれる食品メーカーなど存在しません。

物価高対策において、内容と同じくらい重要なのは「速さ」です。 半年後に100点の制度を始めるより、今月から70点の対策を始めたほうが、今困っている人には間違いなく役立ちます。

ところが日本の政治と行政は、100点の制度を検討しているうちに、試験そのものが終わってしまうのです。

0%か1%か、そんなに長く悩む話なのか

食料品の消費税を0%ではなく1%にする点には、一応の理由があります。完全非課税にする場合と、課税取引のまま税率を1%にする場合では、仕入税額控除やインボイスの取り扱いが異なります。「1%を残したほうが、小売店などのシステム変更負担を減らせる」という説明も理解はできます。

専門家が制度上の違いを比較する必要性も理解できます。しかし、0%と1%の長所・短所を整理するのに、なぜ半年以上も必要なのか。

民間企業なら、担当者が1週間で比較表を作ります。システム担当者に影響を聞き、経理に税務上の扱いを確認し、営業に顧客への影響を聞く。そして責任者が期限を決めて判断を下します。

もちろん、判断を誤るリスクもあります。ですが、何も決めずに半年間会議を続けさせていれば、その会社は市場競争に負けて潰れます。

一方、行政には競合がいません。国民は「この役所は対応が遅いから、来月から別の国の行政サービスに乗り換えます」とは言えません。だから決めるのが遅くても組織は潰れない。失敗しても倒産しない。給与も支払われ続ける。

消費税減税か給付付き税額控除か決めない政府への怒り

そして最終的なツケ(負担)は、税金や社会保険料という形で国民へと戻ってきます。

「給付付き税額控除」という立派な名前の裏で

消費税減税と並んで、「給付付き税額控除」という制度も議論されています。 言葉の響きは非常に立派です。所得税を払っている人には税額控除を行い、控除しきれない低所得者には残額を現金給付する。例えば10万円の税額控除があっても、所得税を3万円しか払っていない人なら、税金を0円にした上で差額の7万円を給付する仕組みです。

所得税を納めていない層にも支援が届くため、単純な減税より困窮層を助けやすい優れた考え方ではあります。

しかし、これを実行するには「誰の所得がいくらで、家族構成がどうなっていて、税額がいくらで、どの口座へ給付するのか」を正確に把握する必要があります。

そこで必ず出てくるのが、「マイナンバーを活用した新しい仕組みが必要です」という定番の言い訳です。

マイナンバー制度が始まって10年以上が経ちました。それなのに、税金・年金・健康保険・自治体給付を横断し、国民の負担と給付を即座に把握できる仕組みがいまだに完成していない。一体、この10年間何をしていたのでしょうか。

「マイナンバーカードが全国民に普及していないから難しい」という説明も通りません。カードの所有有無にかかわらず、マイナンバー自体は全国民に割り当てられています。

2020年のコロナ禍における特別定額給付金では、申請書に振込口座を書き、通帳のコピーを添えて支給を行いました。年金受給者の振込口座を年金機構は把握しており、生活保護受給者や児童手当世帯の支給先も行政はすでに知っています。つまり、日本中の誰の口座も分からないわけではないのです。

情報が国、自治体、日本年金機構などに分散し、制度ごとに縦割り管理され、横断利用できる行政設計になっていないことこそが本質的な問題です。

コンピューターの最大の強みは、同じ処理を大量データに対して瞬時に繰り返せる点です。1人分の処理計算が決まれば、対象が200万人になろうが1億人になろうが、プログラムの構造自体が何十倍も複雑になるわけではありません。必要なのはサーバー容量や処理時間、セキュリティ対策です。

最大の問題はデータ量ではなく、誰を対象にし、いくら払い、いつの所得をベースにし、過払いをどう処理するかという「仕様(ルール)」を政治と行政が決められないことです。 プログラムが書けないのではありません。「仕様」が決まらないのです。

できる範囲から今すぐ始めよ

全国民を対象にした複雑な仕組みがすぐに作れないなら、できるところから始めればいいはずです。

たとえば生活保護世帯への物価高対策なら今すぐ実施できます。自治体は対象者も世帯状況も支給口座もすでに把握しています。既存の生活保護費に物価高対応として一定額を上乗せするだけで済みます。大規模な全国システムをゼロから構築する必要はありません。年金生活者支援給付金や児童手当の受給世帯も同様です。

まず確実に対象と口座が分かっている層を速やかに救う。その後、住民税非課税世帯、低所得の給与所得者、個人事業主へと段階的に対象を広げていけばよいのです。

「すべてを一度に完璧にできないから、できる人への支援も含めて何もしない」――これが日本の行政の悪い癖です。

行政は、最初からすべての例外を解決しようとします。そして例外の検討に時間をかけている間、原則に当てはまる圧倒的多数の人々が待たされ続ける。民間なら「まず小さく始めて、問題が出れば修正する」というアプローチをとります。

行政は、1つの間違いでも責められるため、最初から100点満点の制度を目指そうとします。しかし皮肉なことに、「いつまでも完成しない(=何も救えない)」ことに対しては、誰も責任を取りません。

迅速に実行して1件の誤給付を出せば国会で徹底追及されるが、何も決めずに100万人への給付を半年遅らせても「慎重に検討した」と言い逃れができる。これでは「何も決めないこと」が、公務員にとって最も安全な仕事になってしまいます。

※本記事は、筆者自身の経験や調査に基づく情報提供を目的として作成しています。
 投資には価格変動などのリスクがあり、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断は、ご自身の責任において行ってください。
 年金制度、健康保険制度、保険料、税金等の取り扱いは、法改正やお住まいの自治体、年齢、所得、家族構成などによって異なる場合があります。最新の情報は、年金事務所、自治体、税務署等の窓口でご確認ください。
 本記事は、投資助言、税務相談、保険加入等を推奨するものではありません。
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