ガソリン161円。「意外と安い」と思った

- そして日本は追い詰められていく

近所ではガソリンは161円。日本もなかなか頑張っている

先日、近所のガソリンスタンドの前を通ると「レギュラー 161円/L」と表示されていました。

「おっ、落ち着いているじゃあないか」と感じます。先日東北へ行ったときには169円/Lでした。地域差はあるものの、だいたい160円台です。

しかし、原油価格は高止まりし、中東情勢も落ち着きません。ホルムズ海峡を通るタンカーには高い保険料がかかり、日本は遠く離れたアメリカからも原油を買っています。

それなのにガソリンは161円。日本もなかなか頑張っているではないか——と思ったら、話は少し違いました。安くなったのではありません。「安く見えるようにしている」のです。

本当なら220円でもおかしくない

現在、政府は「燃料油価格激変緩和措置」によって、ガソリン1Lあたり約51.0円の補助を出しています。単純に考えれば、今170円前後で売られているガソリンは、補助がなければ220円/L前後でもおかしくないということです。

近所の161円という価格も、原油そのものが昔のように安くなった結果ではありません。政府が価格上昇分を肩代わりしているから、この値段で収まっているのです。

非常にありがたい話ですが、ここでいつもの疑問が浮かびます。「その51円は、誰が払っているのか?」

答えは政府です。では、政府のお金とは誰のお金でしょうか。税金です。それで足りなければ国債(借金)です。

結局、ガソリンスタンドで払わなかった分が消えてなくなるわけではありません。財布の右ポケットから払うはずだったお金を、一度左ポケットから払っているようなものです。

ガソリン価格の裏を考える

しかも、この燃料油対策はすでに予算ベースで約1.7兆円規模まで膨らんでいます。1兆7000億円。ガソリンを数十円安く見せるために、これだけの国家予算が動いています。1Lで見れば51円ですが、全国規模になると一気に「兆」の単位になります。

政府のお金という「特別な財布」はない

「政府が補助してくれる」という言葉は便利です。なんとなく自分以外の誰かがお金を出してくれているように聞こえます。

しかし、霞が関の地下室に巨大な金庫があって「今回は政府のおごりです!」と札束を取り出しているわけではありません。国の支出は、最終的に国民が負担します。今の税金で払うか、別の支出を削るか、あるいは国債という形で将来の世代へ回すか。方法が違うだけです。

もちろん、急激なガソリン価格の上昇を防ぐ意味はあります。もし突然220円になれば、自家用車だけでなく、トラック、バス、タクシー、農業、漁業、建設、宅配など、あらゆる産業に影響が出ます。運送費が上がれば、最後はスーパーの値札にも跳ね返ってきます。そのため、価格を急激に上げない政策そのものには合理性があります。

問題は「これをいつまで続けられるのか」です。

今度は食料品にも巨額の対策

さらに来年2027年4月からは、現在8%の軽減税率が適用されている飲食料品の消費税率を1%に引き下げる予定です。所得に応じた給付を組み合わせ、食料品の消費税負担を実質ゼロに近づける仕組みです。

家計としてはありがたい話です。年金生活をしていると、食費は削れるようでなかなか削れません。「今月は厳しいから夕食を週3回にしよう」というわけにはいかないのです。

ところが、この食料品対策に必要な財源は年間およそ5兆円規模とされています。2年間なら約10兆円。ここまで大きくなると、もはや庶民の感覚ではよく分かりません。「1万円札で何枚だろう」「積み上げたらどこまで届くのだろう」という計算はやめておきます。

大切なのは「その10兆円をどこから持ってくるのか」です。

政府は国債に頼らず、歳出削減や税外収入などで財源を確保するとしています。本当にできるなら問題はありません。しかし、日本の財政にはすでに社会保障、防衛、子育て支援、災害対策、地方交付税など、さまざまな支出があります。そこへ原油高対策や燃料補助が加わり、さらに食料品対策で年間5兆円です。

私なら、家計簿を静かに閉じてしばらく天井を見つめます。

原油は高い。でも買わないわけにはいかない

日本にとって厳しいのは、原油の大部分を輸入に頼っている点です。特に中東依存度が高いため、ホルムズ海峡周辺で問題が起きると直接的な打撃を受けます。

「中東が危ないならアメリカから買えばいい」となり、実際、日本はアメリカからの原油輸入を増やしています。しかしアメリカは遠く、航海日数が延び、タンカー代や保険料も嵩みます。さらに世界中が中東以外の原油を欲しがれば、そちらの価格まで跳ね上がります。

原油そのものが高く、運ぶコストも高い。それを円安の日本がドルで買います。そして国内では「ガソリン220円では困る」ということで、1Lあたり51円を政府が補助する。海外には高いお金を払い、国内ではその高くなった分を税金で隠す——なんとも苦しい構図です。

円安がさらに問題を複雑にする

原油価格だけでも厄介ですが、日本にはもう一つ大きな問題があります。「円安」です。

原油はドルで取引されます。仮に1バレル=100ドルだとして、1ドル=100円なら1万円ですが、1ドル=160円なら1万6000円です。原油価格そのものが同じでも、日本が支払う金額は大きく変わります。

そして円安で高くなるのは原油だけではありません。小麦、大豆、飼料、コーヒー豆、カカオ、衣類、スマートフォン、パソコンなど、あらゆる輸入品が高騰します。最近、スーパーでコーヒーを見るたび「いつからこれは高級嗜好品になったのだろう」と思ってしまいます。

そこで日銀は金利を上げ、2026年9月には政策金利を1.25%まで引き上げました。一般論として日本の金利が上がれば円高方向への圧力になります。ところが現実には、金利を上げても円安は簡単には止まりません。

為替市場は日本の金利だけでなく、アメリカの金利、日本の景気、貿易収支、財政赤字、政府の政策、将来の成長力など、すべてを見ているからです。「金利を上げたから円高になる」というほど単純ではありません。

ここに少し「嫌な循環」がある

今の日本を眺めていると、一つ気になる流れがあります。

「物価が上がる ➔ 政府が補助金を出す・減税する ➔ 財政負担が増える ➔ 原油は買わなければならない ➔ 円安なら輸入価格がさらに上がる ➔ また物価対策が必要になる」

もちろん「国債が増えれば必ず円安になる」という単純な話ではありません。為替は複雑です。ただし、財政支出が増え続け、それが将来の成長につながる投資ではなく「値上がりしたものを安く見せるための支出」ばかりになるとしたら、やはり心配になります。

例えば、新しい発電所を造る、研究開発をする、工場を建てる、新しい産業を育てる——そうした支出なら、将来の利益や税収につながる可能性があります。しかし燃料補助は違います。今日51円補助しても、明日の日本に設備や資産が残るわけではありません。原油が高ければ明日も51円が必要で、来月も半年後も必要です。つまり「使った瞬間に消えていくお金」なのです。

家計なら、とっくに夫婦会議です

これを普通の家庭に置き換えると分かりやすくなります。

食費、電気代、ガソリン代が上がったとき、私が妻に「大丈夫。全部私が補助するから」と言ったとします。妻は「そのお金、どこから出すの?」と聞くでしょう。そこで私が「それはこれから考える」と答えたらどうなるか。おそらく我が家では、その日から夕食のおかずが一品減ります。

収入が増えていないのに支出だけが増えれば、「何かを削る」「貯金を取り崩す」「借金する」のどれかしかありません。国の話になると「1兆円」「5兆円」「10兆円」と数字が大きすぎて感覚が麻痺してしまいますが、本質は家計と変わりません。

161円の看板の裏側

もう一度、近所のガソリンスタンドの看板を見ます。「161円/L」。以前なら「今日は安いな」で終わっていたはずの数字です。

しかし今は、その看板の裏側が見えるようになりました。本来なら200円を大きく超えていてもおかしくないところを、政府が1Lあたり51円補助している。そのために燃料対策だけで約1.7兆円。さらに来年からは食料品対策に年間約5兆円。その一方で、日本は高くなった原油をドルで買い続け、円安がそれをさらに重くする。

つまり、価格を下げているのではありません。「高くなった分を別の場所へ移している」だけです。ガソリンスタンドやスーパーで払わなかった分は政府へ移り、政府が払った分は、いつか税金やサービス削減、将来への借金という形で国民へ戻ってきます。

「安い」のではなく、「見えなくしている」

物価高対策自体は必要です。いきなりガソリンが220円になれば生活は成り立ちませんし、食料品の負担が軽くなるのも助かります。私だって安い方が嬉しいのが本音です。

だからこそ「本当はいくらかかっているのか」を知っておくことが大切だと感じます。

161円のガソリンは、161円でできているわけではありません。後ろには51円の補助があり、それが全国に広がれば兆単位になります。来年からは食料品にも巨額の財政支出が始まります。一方で原油は高く、円は安い。金利を上げれば企業や住宅ローンの負担が増え、上げなければ円安が進む。補助金をやめれば物価が上がり、続ければ財政が痛む。どちらに動いてもどこかが苦しくなる状態です。

問題は、ガソリンが161円か169円かではありません。その価格を維持するために、日本全体でいくら払っているのか。そちらの方がずっと大きな問題です。

近所のスタンドでは、今日も161円。数字だけ見れば平穏です。しかしその裏側では、原油高、円安、補助金、減税、財政負担、金利上昇が絡み合い、一つの問題を解決しようとすると別の問題が膨らむ構造が出来上がっています。

そして、選べる手段が少しずつ減っていく。

そして、日本は追い詰められていく。

※本記事は、筆者自身の経験や調査に基づく情報提供を目的として作成しています。
 投資には価格変動などのリスクがあり、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断は、ご自身の責任において行ってください。
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 本記事は、投資助言、税務相談、保険加入等を推奨するものではありません。
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