― それなのに中学生の人気職業はプログラマー
先日、X(旧Twitter)を眺めていたら、こんな投稿が流れてきました。
「世界一勉強しない国」
- 1位 53% 日本
- 2位 29% オーストラリア
- 3位 28% スウェーデン
- 4位 24% イギリス
- 5位 23% フランス
- 6位 21% ドイツ
- 6位 21% 中国
- 8位 20% シンガポール
- 9位 19% 韓国
- 10位 18% 香港
- 11位16% アメリカ
- 12位15% 台湾
そして投稿の最後には、こう締めくくられていました。
「全体の53%が読書すらしない、世界一学ばない国は日本(出典:パーソナル総合研究所)」
日本人の半分以上が本すら読まないのか。電車に乗ればみんなスマホを見つめ、新聞を広げている人なんて絶滅危惧種。本を読んでいる人より、ショート動画を指でシュッシュッとスクロールしている人のほうが圧倒的に多い時代です。
「なるほど、日本人はとうとう本まで読まなくなっていたのか」
……そう納得しかけたのですが、こうした刺激的な数字を見たときは元データを確認する癖があります。何しろ私は老人です。老人は疑り深いのです。
さっそく調べてみました。
「53%が読書すらしない」の真実
出典は「パーソナル総合研究所」ではなく、正しくはパーソル総合研究所です。
2022年に行われた「グローバル就業実態・成長意識調査」を確認すると、確かに日本の数字は52.6%でした。しかし、実際の設問内容は以下の通りです。
「勤務先以外で、自分の成長を目的として行っている学習や自己啓発活動についてお知らせください」
この問いに対し、「特に何も行っていない」と回答した日本の就業者が52.6%だった、というのが事実に近い解釈です。
調査対象となった18カ国・地域の中で全体平均は18.0%ですから、日本の52.6%が突出して高いのは間違いありません。しかし、「日本人の53%が読書すらしない」という意味とはまったく異なります。
- 小説を読んでいる
- 歴史の本を楽しんでいる
- 趣味の釣りの本を読んでいる
- YouTubeで世界史の解説を3時間見ている
本人がこれらを「仕事や自分の成長のための学習」と意識していなければ、この数値には反映されません。元の調査が尋ねているのは、社外で行う自己研鑽(読書、研修・セミナー、資格取得、eラーニング、語学学習など)です。
そう考えると、53%という数字も納得がいきます。とはいえ、ショックであることには変わりありません。
仕事が終わったら、仕事の勉強なんてしたくないのが人情
自分の会社員時代を振り返ってみれば、その気持ちは痛いほど分かります。朝から会社へ行き、会議をこなし、客先へ飛び回り、上司に報告して帰宅したらもう夜。そこから「さあ、今日も自分の成長のために2時間勉強するぞ!」となれる人がどれほどいるでしょうか。
お風呂に入ってビールを飲み、テレビを見て「今日は疲れたから明日から勉強しよう」。明日になれば「今日はもっと疲れたから来週からにしよう」。気がついたら定年を迎えていた――それが現実というものです。
かつての日本企業には「会社に入れば仕事は現場で覚える」という文化がありました。勉強しなくても毎日出社していれば仕事を覚え、長く勤めていれば経験が増え、年功序列で給与や役職も上がっていく。そんな時代が長く続いていました。
すでに否定された働き方だと思っていましたが、制度が変わっても人間の意識はそう簡単には変わらないのかもしれません。公務員人気が高いのも、そうした安定や将来設計のしやすさを求める意識が根底にあるからでしょう。
もちろん、公務員だって勉強します。法律や制度は変わりますし、資格試験や休日に自己研鑽へ励む公務員も大勢います。公務員=勉強しなくていい仕事と言うつもりは毛頭ありません。
ただ、「できるだけ安定した職業に就きたい」という発想と、「会社の外でも常に新しい技術を学び続けなければ生き残れない職業」とでは、求められるマインドの方向性が大きく異なります。
そこで思い出したのが、先日目にしたニュースです。
中学生男子のなりたい職業「プログラマー」のリアル
中学生男子のなりたい職業として「プログラマー」が非常に高い人気を集めているそうです。40年以上システム開発業界を横から眺めてきた老人としては、ちょっと嬉しいニュースでした。
「若者よ、IT業界へようこそ!」
そう歓迎したい反面、「君たち、本当に覚悟はできているか?」と問いかけたくもなります。
中学生が思い描くプログラマーのイメージは、おそらく「好きなパソコンを使い、好きなプログラムを書いて、ゲームやスマホアプリを作る人」といった華やかなものでしょう。確かにそういう仕事もあります。しかし、会社に入って最初に渡されるのは自由な夢のチケットではありません。むしろ正反対のものです。
- 仕様書
- 設計書
- コーディング規約
- テスト仕様書
- スケジュール表と厳格な納期
画面には夢も希望もない言葉が並びます。「この画面、僕ならこう作ったほうが使いやすいと思います」と提案しても、「仕様書どおりに作ってください」で一蹴されることもある。それが「仕事としてのプログラミング」です。
40年前に使っていた技術は、今や名前すら残っていない
私は40年以上、システム開発の営業としてこの業界を見てきました。
私が若かった頃、業務システムの世界で代表的だった言語はCOBOLでした。IBMのAS/400などで使われたRPG(ロールプレイングゲームではなく、特有のプログラム言語です)や、富士通系のCAPG、三菱電機のPROGRESS、NECのSMARTなど、今の若い技術者が聞いたら「それ何ですか?」となるような言語が溢れていました。
その後、時代とともに技術は目まぐるしく変化します。
- パソコンの普及: BASIC
- データベース: dBASE III、R:BASE
- 構造化・オブジェクト指向: C言語、C++、Java、C#
- Web・スマホ領域: JavaScript、TypeScript、Swift、Kotlin
- AI・最新トレンド: Python、Go、SAP/ABAPなど
最近ではコードを書かずにシステムを構築する「ローコード・ノーコード」が普及し、今や生成AIがコードを書く時代です。「プログラマーになろう!」と意気込んでいたら、隣でAIがプログラムを高速生成している。40年前の私が見たらSF映画の世界です。
中学生が今学んでいる技術は、就職する頃には「古文」になる?
ここがプログラマーという職業の恐ろしいところです。
中学生が今、一生懸命あるプログラミング言語を覚えたとします。それは素晴らしい取り組みですし、変数や条件分岐、アルゴリズムといった基礎的な考え方を学ぶ意味は大いにあります。
しかし、「この言語をマスターしたから一生安泰」という世界は存在しません。大学を卒業して社会に出る頃には、今覚えた最新技術が「昔そういうのもあったよね」と扱われている可能性すらあります。
中学時代に覚えた技術が、社会人になる頃には国語の授業で習う「古文(いとをかし)」のようになってしまう。面接で「私は〇〇言語を完璧にマスターしました!」とアピールして、面接官から「ああ、懐かしいですね」と返されたら泣くに泣けません。
プログラマーを40年続ける=40年間勉強し続けるということ
ここで冒頭の「日本人の52.6%は社外で自己研鑽をしていない」という話に戻ります。実はプログラマーという職業、この日本の現状と最も相性が悪いのです。
私の同期や後輩には、今も現役でシステム開発に関わっている人がいます。しかし、昔覚えた技術だけで40年間生き残ってきた人なんて一人もいません。
新しいOS、新しいデータベース、新しい言語、新しいフレームワーク、クラウド、スマホ、セキュリティ、そしてAI――。次々と新しい波が押し寄せるたびに学び直しです。それも会社の研修だけではとても追いつきません。
本を読み、ネットで調べ、自分のパソコンに環境を構築し、サンプルコードを書いてエラーと戦う。深夜に「なんで動かないんだ!」と頭を抱え、翌朝になって「セミコロンが1個抜けていただけだった」と脱力する。
プログラマーとは、そうした地道な試行錯誤を何十年も続ける生き物です。私の知っている現役エンジニアたちは、みんなそれを泥臭く続けてきました。
逆に、学びを止めてしまった人たちはどうなったか。管理職や営業へ転身した人もいれば、別の業界へ去っていった人もいます。「昔覚えた技術一本で定年まで逃げ切る」というのは、この業界において極めて難しい選択なのです。
プログラムを書かなかった私。それはそれで幸せだったのかもしれない
では、私自身はどうだったのか。
幸いなのか不幸なのか、私は40年以上システム開発業界にいながら、仕事でお金をもらってプログラムを書いたことが一度もありません。プログラマー志望で入社して3日目で会社から「君は営業だ」と命じられたからです。
もともとコンピュータが好きで、今でもブログを書いたり、WordPressをいじったり、HTMLを触ったり、AIを活用したりしています。分からなければ自分で調べますし、今もシステム開発のすぐ近くにいます。しかし、プログラミングそのものは職業にしなかった。
今になって思うと、それで良かったのかもしれません。
世間ではよく「好きなことを仕事にしなさい」と言われますが、私はむしろ逆の考えを持っています。「好きなことは趣味として残しておく」という選択肢です。
好きなことを仕事にすると、自分の思い通りにはできなくなります。プログラムが好きでも、仕事になれば他人が決めた仕様、厳しい予算、突発的な仕様変更、そして「今日中にやってくれ」という納期に追われます。趣味なら「疲れたから今日はやめよう」で済みますが、仕事では逃げられません。
だからこそ、私はコンピュータを仕事のすぐ隣に置きながら、最後まで「大好きな趣味」として残せました。これは案外、幸運なキャリアだったと感じています。
それでもプログラマーを目指す中学生へ
社会人の52.6%が社外で勉強をしていない国・日本。その一方で、これから社会へ出る中学生男子に「プログラマー」が人気を集めている。これは非常に興味深い対比です。
プログラマーは「一度やり方を覚えたら終わり」の職業ではありません。「仕事を辞めるまで一生学びが続く職業」です。
それでも「プログラマーになりたい」と言ってくれる中学生がたくさんいる。長年この業界を見てきたおじいさんとしては、前回は厳しい言葉も書きましたが、頼もしく、そして嬉しい気持ちでいっぱいです。
ゲームが好き、パソコンが好き、コードを書くのが面白そう。きっかけは何だって構いません。最高の入口です。
ただ、プロの現場に出れば、見知らぬ人が書いた仕様書と格闘し、突然動かなくなったプログラムに頭を悩ませ、新しい技術を追う日々が待っています。そして、ようやくマスターした技術も、数年後には「それ、もう古いですよ」と言われる日が必ず来ます。

「それでもプログラミングは面白い!」と思えるなら、ぜひ迷わずこの世界に飛び込んできてください。
「就職したらもう勉強したくない」と思っている大人たちより、君たちのほうが遥かに明るい未来を持っています。
最後に、おじいさんから一言だけ。
「プログラマーになったら、定年までずっと勉強だぞ。それでもやるかい?」
「やる!」と即答してくれる頼もしい中学生を、私は全力で応援しています。


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