年金だけでは生活できないという報道
テレビを見ていると、よく耳にする言葉があります。
年金生活者である私としては、聞くたびに少し不安になります。 テレビに出てくる高齢者は「年金だけでは毎月赤字だ」と言い、専門家は「老後には年金以外に数千万円必要だ」と言います。
しかし、そこで疑問に思いました。 年金だけでは生活できないというのは、日本だけの話なのでしょうか。
- アメリカの高齢者は、年金だけで暮らしているのか?
- フランスでは、年金をもらえば毎日カフェで優雅に過ごせるのか?
- 中国の農村部やインドの高齢者には、そもそも年金があるのか?
そこで世界各国の年金事情を調べてみようと思ったのですが、年金額だけを比べても意味がありません。 高齢者が国民の5%しかいない国と、国民の約3割が高齢者になっている日本では、年金制度を支える条件がまったく違うからです。
ということで、「世界の年金事情」第1回は、年金額の比較に入る前に、各国の人口と高齢化率を見ていきます。
世界各国の人口と高齢化率
ここでいう「高齢化率」とは、総人口に占める65歳以上の人口の割合です。
| 地域 | 国 | 人口(概数) | 65歳以上人口割合 |
|---|---|---|---|
| アジア・ 環太平洋 |
日本 | 1億2,400万人 | 29.3% |
| 中国 | 14億1,000万人 | 約15% | |
| 韓国 | 5,200万人 | 約20% | |
| ベトナム | 1億100万人 | 約9% | |
| インド | 14億5,000万人 | 約7% | |
| オーストラリア | 2,700万人 | 約17% | |
| ヨーロッパ | イギリス | 6,900万人 | 約19% |
| フランス | 6,800万人 | 約22% | |
| ドイツ | 8,400万人 | 約23% | |
| 南北アメリカ | アメリカ | 3億4,000万人 | 約18% |
| カナダ | 4,100万人 | 約20% | |
| ブラジル | 2億1,200万人 | 約11% | |
| メキシコ | 1億3,000万人 | 約8% | |
| アフリカ | エジプト | 1億1,600万人 | 約5% |
| 南アフリカ | 6,300万人 | 約6% |
※人口と65歳以上人口割合は、世界銀行および国連人口部の2024年前後のデータを基にした概数です。国によって統計の基準日が異なるため、細かな順位ではなく、各国の人口構成の違いを見るための数字です。
日本の「29.3%」が強烈すぎる
一覧表を作ってみると、年金制度を調べる前に、日本の数字に目を奪われます。
日本の高齢化率は 29.3%。 国民のほぼ10人に3人が65歳以上です。人口1,000万人以上の主要国で見ると、世界最高水準です。
ドイツが約23%、フランスが約22%、韓国とカナダが約20%ですから、日本はそこからさらに一段上にいます。一方、インドは約7%、エジプトは約5%、南アフリカは約6%です。

日本では高齢者を珍しい存在とは感じません。スーパーに行っても、病院に行っても、バスに乗っても、周囲を見れば同世代が大勢います。 高齢者向けの売り場も充実していますし、テレビでは健康食品、ひざの痛み、尿の悩み、葬儀保険のコマーシャルが続きます。若者向け番組を見ていたはずなのに、コマーシャルになると突然ひざと血圧の話になることがあります。広告会社も、日本の人口構成をよく分かっているようです。
戦争で人口が減ったのに、なぜ高齢者が多いのか
日本は先の大戦で、多くの人を失いました。 それなのに、なぜ現在の日本は世界有数の高齢国になったのでしょうか。
戦争で亡くなった人が多かったことと、現在の高齢化率が高いことは、一見すると矛盾しているようにも思えます。 しかし、現在の高齢化を大きく押し上げているのは、戦後に生まれた世代です。
日本では1947年から1949年にかけて、第1次ベビーブームが起きました。 この3年間は、毎年260万人を超える子どもが生まれました。1949年の出生数は約270万人です。 現在の出生数が年間70万人を下回る水準であることを考えると、同じ日本とは思えない人数です。産婦人科も学校も、満員どころの話ではなかったでしょう。
この巨大な世代が、いわゆる「団塊の世代」です。 団塊の世代は2012年ごろから65歳を迎え、2022年ごろからは75歳以上(後期高齢者)になり始めました。
つまり、日本の急激な高齢化は、単に「長生きする人が増えた」だけでなく、「戦後に大量に生まれた世代が、そろって高齢期を迎えた」ことによって加速しているのです。
日本が長寿国になった
高齢化率が高くなった二つ目の理由は、日本人の平均寿命が著しく伸びたことです。 これは本来、大いに喜ぶべきことです。
医療技術が発達し、国民皆保険が整備され、乳幼児死亡率が下がりました。結核などの感染症で亡くなる人も減り、高血圧や脳卒中、心臓病の治療も進歩しました。上下水道が整備され、食生活や衛生環境も改善しました。
私自身も高脂血症で定期的に病院へ通い、眼科でも治療を受けています。昔なら「年だから仕方がない」で終わっていた病気を、現在は検査し、薬を飲み、必要なら手術や注射で治療します。 病院通いが増えるのは面倒ですが、そのおかげで長く生きられるようになった面もあります。
高齢化率の高さは、日本の医療、衛生、社会保障が一定の成果を上げた証拠でもあるのです。 問題は、長生きする人が増えたことそのものではありません。その一方で、若い世代が急激に減ったことです。
高齢者が増え、若い人が減った
高齢化率は、「65歳以上人口 ÷ 総人口」で計算します。 したがって、高齢者の人数が増えれば高齢化率は上がりますが、それだけではありません。子どもや現役世代が減り、総人口という「分母」が小さくなっても、高齢化率は上がります。
日本では、この両方が同時に進みました。
団塊の世代が高齢者になり、医療の発達で長寿化しました。 その一方で、出生数は第1次ベビーブーム当時の約270万人から、現在は70万人を下回る水準まで減っています。ざっくり言えば、かつて1年間に生まれた子どもの4分の1程度しか生まれていません。
高齢者が急に増殖したわけではありません。若者が急速に少なくなった結果、高齢者の割合が大きく見えるようになったのです。
子どもを産み育てにくい社会
出生数が減った理由として、子育て費用の高さがよく挙げられます。 住宅費、食費、保育料、習い事、教育費。大学まで進学させようと考えれば、かなりの金額になります。
しかし、問題は子育てが始まった後だけではありません。
- 若い世代の収入が安定しない(非正規雇用の問題など)
- 住宅費が高い
- 仕事が忙しく、家庭を持つ余裕がない
- 共働きでも、家事や育児の負担が片方に偏りやすい
そして日本では、結婚しない人、結婚できない人が増えました。欧米に比べて婚外子が少ない日本では、未婚化の進行がそのまま出生数の減少につながりやすくなります。
さらに深刻なのは、これから子どもを産む世代の人数(母数)そのものが、すでに減っていることです。 出生率が多少回復したとしても、親になる世代が少ないため、出生数は簡単には増えません。水道の蛇口を少し開いても、元のタンクに水が少ないようなものです。
長生きには成功し、次の世代を増やせなかった
日本の高齢化率29.3%という数字を見ると、「高齢者が多すぎる」とマイナスに捉えてしまいがちです。 しかし、人々が長生きできる社会を作ること自体は、間違いなく日本の成功体験です。戦後の混乱から立ち直り、国民皆保険を作り、医療を発達させ、食料や衛生環境を改善してきました。
一方で、若い世代が安心して結婚し、子どもを産み育てられる社会を作ることには、十分成功したとは言えません。 その二つが重なった結果、日本は世界有数の高齢国になりました。
高齢者が多い日本の年金はどうなるのか
今回の高齢化率を調べると、年金制度を見る前提が見えてきます。
高齢者が人口の5%程度しかいない国と、約3割を占める日本とでは、年金を支給するために必要なお金も、それを負担する現役世代の重さもまったく違います。
日本では、年金を受け取る人が増える一方で、保険料や税金を負担する現役世代が減っています。これでは、年金制度の繰り回しが苦しくなるのも無理はありません。
もっとも、だからといって「日本の年金はもう破綻する」と簡単に結論づけるのも違います。
- 税金をどこまで投入するのか
- 受給開始年齢をどうするのか
- 現役時代の所得に対して、どれくらいの年金を保障するのか
- 低年金の高齢者を別の制度で支えるのか
その答えや工夫は、国によって大きく異なります。
次回は、今回見た高齢化率を踏まえて、世界各国の公的年金制度を比較します。 日本の年金は、本当に海外より少ないのでしょうか。 そして海外の高齢者は、本当に年金だけで生活できているのでしょうか。
調べ始めた時点では年金額が主役になる予定でしたが、まず日本の高齢化率「29.3%」に、すべてを持っていかれてしまいました。


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