- 2028年改正を調べたら、見出しとは少し違っていた
2028年から始まる遺族厚生年金の制度改正
前回の記事では、「私が先に死んだら、妻はいくらもらえるのか」を、私たち夫婦の実際の年金額を使って計算しました。
私の公的年金は、年間約198万円。
妻は、年間約125万円。
夫婦合計では、年間約323万円です。
そして私が先に亡くなった場合、妻が受け取る公的年金は、遺族厚生年金を含めて年間約171万円になるという試算でした。
夫婦2人で約323万円だった年金収入が、妻1人になると約171万円。
人数が半分になるのだから、生活費も半分になれば話は簡単です。
しかし、固定資産税は「ご主人が亡くなったので半額にしておきますね」とは言ってくれません。
火災保険も、家の修繕費も、冷蔵庫も、妻1人になったからといって急に遠慮深くなるわけではありません。
それでも、遺族厚生年金があることで、妻の生活がいきなり立ち行かなくなるわけではない。
そう分かり、少し安心したところでした。
ところが、その計算をしている最中に、こんな見出しが目に飛び込んできました。
「遺族年金、原則5年で打ち切りへ」
えっ?
5年で終わるの?
それでは、せっかく作った計算表が早くも紙くずではありませんか。
年金の記事は、読めば読むほど安心できるものだと思っていたのですが、実際には読めば読むほど血圧が上がります。
そこで今回は、2028年から始まる遺族厚生年金の制度改正について、厚生労働省の資料を確認しながら整理してみました。
最初に結論――私たち夫婦は対象外
まず、わが家にとって一番大切な結論から書きます。
私たち夫婦は、今回の制度改正によって遺族厚生年金が5年間になる対象ではありません。
私は1959年生まれで、妻もすでに60歳を超えています。
厚生労働省は、今回の見直しによる影響を受けない人として、次のような人を挙げています。
- すでに遺族厚生年金を受給している人
- 60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人
- 18歳到達年度末までの子を養育している間の給付
- 2028年度に40歳以上になる女性
したがって、私が2028年以降に亡くなったとしても、妻の遺族厚生年金が5年で終了するわけではありません。
前回計算した、妻の公的年金が年間約171万円になるという試算についても、「2028年から5年間だけになる」と考える必要はありません。
ここまで確認して、ようやく湯飲みを置くことができました。
ニュースの見出しだけを見ていると、現在の遺族年金受給者も、これから配偶者を亡くす高齢者も、全員5年で打ち切られるように感じます。
しかし、実際の制度はそうではありません。
「遺族年金は5年で打ち切り」という見出しは、かなり大きな主語を使った表現なのです。
改正法はすでに成立している
この遺族厚生年金の見直しを含む年金制度改正法は、2025年6月13日に成立しました。
施行は2028年4月の予定です。
つまり、現在は「これから国会で議論される案」という段階ではありません。
すでに法律として成立し、施行を待っている制度です。
改正の背景には、共働き世帯の増加や、男女の受給条件の違いがあります。
これまでの遺族厚生年金は、簡単に言えば、
「夫が働き、妻が扶養される」
という家族像を前提に作られていました。
夫が亡くなった場合、一定の条件を満たす妻には遺族厚生年金が支給されます。
一方、妻が亡くなった場合、夫が遺族厚生年金を受け取るには年齢などの条件が厳しく、若い夫はほとんど受給できませんでした。
ところが現在は、夫婦共働きが珍しくありません。
妻の収入が家計を支えている家庭もあります。
それなのに、妻を亡くした夫には保障がほとんどなく、夫を亡くした妻には長期間の保障がある。
これでは男女の扱いに差がありすぎるということで、今回の制度改正では、現役世代の男女差を縮めることになりました。
誰が「5年間の有期給付」の対象になるのか
2028年4月の施行直後に、新たに5年間の有期給付の対象になるのは、主に子どものいない現役世代です。
ここでいう子どもとは、原則として18歳になった年度の末までの子どもを指します。
女性の場合
女性の場合、施行直後に新たに対象となるのは、
「18歳到達年度末までの子どもがいない、2028年度末時点で40歳未満の女性」
です。
なお、20代の女性については、現在の制度でも原則5年間の有期給付です。
そのため、2028年の改正によって新たに影響を受けるのは、主に30代の女性です。
厚生労働省の推計では、施行直後に新たな対象となる30代女性は、年間約250人とされています。
「2028年から60歳未満の女性全員が5年間になる」という話ではありません。
また、2028年度に40歳以上になる女性は、今回の見直しによる影響を受けません。
男性の場合
男性の場合は、18歳到達年度末までの子どもがいない60歳未満の人も、新たに5年間の有期給付を受けられるようになります。
これまで、妻を亡くした若い夫は遺族厚生年金を受け取りにくい制度でした。
今回の改正では、この男女差が見直されます。
厚生労働省の推計では、新たに対象となる男性は年間約1万6000人です。
女性の給付を有期化する部分だけを見ると「削減」に見えますが、これまで保障されにくかった男性へ給付対象を広げる部分もあります。
したがって、今回の改正を単純に、
「国が遺族年金を全部削る」
と理解するのも正確ではありません。
「5年で終わり」とも限らない
新しい制度では、対象となる人の遺族厚生年金は、原則として5年間の有期給付になります。
ただし、その5年間については「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金額の約1.3倍になると説明されています。
ここで注意が必要です。
約1.3倍になるのは、残された人が受け取る年金総額ではありません。
有期給付の対象となる遺族厚生年金の部分です。
前回の記事では、私が亡くなった後、妻が受け取る公的年金を年間約171万円と試算しました。
この約171万円には、
- 妻自身の老齢基礎年金
- 妻自身の老齢厚生年金
- 夫の死亡による遺族厚生年金
が含まれています。
したがって、
「171万円を1.3倍すると約222万円になる」
という計算はできません。
そもそも妻は、今回の5年間の有期給付の対象ではありません。
対象となる年齢も制度上の立場も違うため、「年171万円を生涯受け取る場合」と「年222万円を5年間受け取る場合」を比べること自体が適切ではなかったのです。
年金制度は、電卓をたたく前に、計算してよい数字なのかを確認しなければなりません。
私は計算そのものより、その前の段階でつまずいていました。
5年後も「継続給付」がある
さらに重要なのが、5年間の有期給付が終わった後です。
ニュースの見出しだけを見ると、5年たった瞬間に遺族厚生年金が完全にゼロになるように感じます。
しかし、すべての人が5年で一律に終了するわけではありません。
5年間の有期給付が終わった後も、
- 障害年金の受給権がある人
- 収入が十分でない人
には、「継続給付」が支給されます。
厚生労働省の説明では、単身者の場合、就労収入が月額約10万円、年間約122万円以下であれば、継続給付が全額支給されるとされています。
ただし、この基準額は税制改正の反映や、地方税法上の寡婦に該当するかどうかなどによって変わります。
収入が増えると、継続給付は突然ゼロになるのではなく、収入と年金の合計額が緩やかに増えるよう調整されます。
つまり、
「5年間は多めに支給する。その後は収入や健康状態に応じて支える」
という仕組みです。
したがって、「45歳で配偶者を亡くしたら、50歳から65歳まで15年間、遺族年金が完全になくなる」
という説明も正確ではありません。
十分な就労収入がある人は給付が終了する可能性がありますが、収入が少ない人や障害状態にある人には継続給付があります。
子どもがいる家庭はどうなるのか
18歳到達年度末までの子どもがいる家庭では、その子どもを養育している間、現在と同じ給付が続きます。
配偶者を亡くした日から5年間だけ数えて、子どもがまだ小学生でも終了するわけではありません。
子どもが18歳到達年度末を迎えた後、さらに5年間は、増額された有期給付と継続給付の対象になります。
また、遺族基礎年金の子どもの加算額も増額される予定です。
小さな子どもを抱えて配偶者を亡くした家庭への保障は、今回の改正でも維持されています。
この点も、「遺族年金は5年で打ち切り」という一行だけでは分かりません。
国の考え方は理解できる
私は43年間、会社員として厚生年金保険料を払い続けてきました。
その間、厚生年金は老後の生活だけでなく、障害を負ったときや家族を残して亡くなったときにも支えてくれる社会保険だと考えてきました。
そのため、「遺族年金を5年間にする」と聞けば、最初はどうしても不安になります。
一方で、制度の男女差をそのまま残してよいとも思いません。
夫を亡くした妻には遺族厚生年金がある。
しかし、妻を亡くした若い夫にはほとんど支給されない。
共働きが普通になった現在、この違いを説明するのは難しくなっています。
今回の改正は、「夫を亡くした妻を長期間支える制度」から、
「男女を問わず、配偶者を亡くした直後の生活再建を支える制度」へ変えようとしているのでしょう。
最初の5年間は給付を増やし、その間に生活を立て直してもらう。
それでも十分な収入を得られない人や、障害状態にある人には継続給付を行う。
制度の考え方としては理解できます。
それでも、再出発は簡単ではない
理屈が分かったからといって、不安がすべて消えるわけではありません。
40代や50代で突然配偶者を亡くせば、精神的なショックを受けながら、仕事、住まい、家計を組み直さなければなりません。
「これからは男女とも働く時代です」
と言われても、誰もがすぐに正社員として働けるわけではありません。
長い間、家事や介護を担ってきた人もいます。
本人が病気を抱えていることもあります。
地方では、働きたくても希望する仕事が見つからないこともあります。
国の資料では「就労による自立」と簡単に書けますが、実際の生活では、履歴書を書いた翌日に希望の仕事が届くわけではありません。

制度の公平さは必要です。
しかし、残された人の再出発が本当に可能なのかという視点も必要です。
この2つをどのように両立させるかが、今回の改正の本当の課題だと思います。
年金生活者になって分かったこと
若い頃の私は、給付額が多いか少ないかばかり考えていました。
しかし、実際に年金生活者になってみると、
「いくらもらえるか」
と同じくらい、
「いつまで続くのか」
が大切だと分かります。
収入が増えるのはもちろんありがたい。
しかし、期限のない収入には、金額とは別の安心感があります。
毎月の生活費を考えるとき、来年も再来年も入ってくると分かっているお金と、5年後に終わるかもしれないお金では、使い方も気持ちも違います。
一方、若い世代にとっては、最初の5年間を厚くして、その間に生活を立て直す仕組みの方が合っている場合もあるでしょう。
結局、どちらが正しいと簡単には言えません。
ただし、少なくとも、
「遺族年金は全員5年で打ち切られる」
という理解は間違いです。
見出しに驚く前に確認したいこと
2028年から遺族厚生年金の制度は変わります。
しかし、影響は年齢や家族構成によって大きく異なります。
ニュースを見て不安になった場合は、次の点を確認する必要があります。
- 遺族厚生年金の受給権が発生する時点の年齢
- 2028年度時点の年齢
- 18歳到達年度末までの子どもがいるか
- すでに遺族厚生年金を受給しているか
- 5年間の有期給付終了後の収入
- 障害年金の受給権があるか
私の場合、最初は「妻の遺族年金も5年で終わるのか」と慌てました。
しかし調べてみると、私たち夫婦は今回の見直しの対象外でした。
前回作った計算表を捨てる必要もありません。
必要だったのは新しい電卓ではなく、制度の対象者を落ち着いて読むことでした。
年金のニュースは、短い見出しだけで理解できるほど親切にはできていません。
こちらも老眼鏡をかけ、湯飲みを用意し、腰を据えて読む必要があるようです。
それが、年金生活者を続けるための新しい必須科目なのかもしれません。



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