- 減税の本当の怖さは、終わるときに見えてくる
物価が毎年2.5%上がったら
前回は、「食品の消費税が8%から1%に下がっても、本体価格が上がれば減税効果はかなり消えてしまう」というお話をしました。
例えば現在、税抜100円(税込108円)の商品があるとします。
来年4月に消費税が1%になったとしても、本体価格そのものが7%上がって107円になれば、税込108.07円。
消費税率は7ポイントも下がったのに、店頭価格はほぼ変わらない――これが前回の試算でした。
ただし、すべての商品がいきなり7%も値上がりするとも限りません。
そこで今回は、もう少し控えめな数字で現実的にシミュレーションしてみます。
- 来年4月: 本体価格が 3% 上昇
- その後: 毎年 2.5% ずつ上昇(緩やかな物価高)
この前提で2年間の減税期間が過ぎたあと、「本当に消費税を1%から8%へ戻せるのか?」を電卓を叩いて計算してみました。
今100円の商品はどう推移していくか?
現在、税抜100円(税込108円)の商品をモデルに考えてみます。
① 来年4月(食品消費税の減税スタート時)
消費税1%化と同時に、本体価格が3%上がったとします(100円→103円)。
- 103円 × 1.01 = 約 104円現在108円の商品が104円になるので、消費者としては「ちゃんと安くなった!」と実感できます。
② 1年後(食品消費税の減税中・物価上昇2.5%)
本体価格が2.5%上昇します(103円→105.6円)。
- 105.6円 × 1.01 = 約 106.6円少しずつ元の108円に近づいてきます。
③ 2年後・復元前(食品消費税の減税終了直前)
さらにもう1年、2.5%上昇します(105.6円→108.2円)。
- 108.2円 × 1.01 = 約 109.3円2年間の減税期間が終わるころには、消費税1%のままでも、現在(108円)より高い「約109円」になっています。
ここまでは「本体価格が上がった結果」なので、物価高の世の中として仕方ありません。
本当の問題は、ここから食品消費税を8%に戻した瞬間に起こります。
そこで食品消費税を8%へ戻すとどうなるか?
政府の予定どおり、2年後に食品消費税率を1%から8%へ戻すとします。
その時点の本体価格は約108.2円です。
- 108.2円 × 1.08 = 約 116.9円(ほぼ117円!)
推移を一覧表にまとめると、以下のようになります。
| 時点 | 本体価格(税抜) | 消費税率 | 店頭価格(税込) | 現在との比較・状態 |
| 現在 | 100円 | 8% | 108円 | ベースライン |
| 来年4月 | 103円(+3%) | 1% | 約 104円 | 約4円安く「減税」を実感 |
| 1年後 | 約105.6円(+2.5%) | 1% | 約 106.6円 | じわじわ値上がり |
| 2年後(復元直前) | 約108.2円(+2.5%) | 1% | 約 109.3円 | 税率1%でも昔より高い |
| 2年後(8%復元後) | 約108.2円 | 8% | 約 116.9円 | 現在より約9円(約8%)高! |
現在108円だった商品が、2年後の「増税復元」の瞬間に一気に約117円になります。
今より約9円高くなり、率にすれば約8%もの急激な値上げです。
消費者から見れば「元に戻した」ではない
政府から見れば、「予定どおり期限が来たので税率を8%に戻しました」という説明でしょう。
しかし、毎日の買い物をする消費者から見える景色はまったく違います。
104円 → 106円 → 109円 と推移してきた商品が、ある日突然「117円」になるのです。
これは消費者にとっては「元に戻った」のではなく、「食品が一気に大値上げされた」としか感じられません。

しかも対象は、パン、牛乳、肉、魚、野菜、豆腐、調味料といった「毎日必ず買う生活必需品」です。
1商品で9円の差でも、買い物カゴ全体に広がれば毎月の家計を直撃します。収入の増えない年金生活者にとっては、なおさら深刻です。
しかも企業は「2度目のシステム改修コスト」を乗せてくる
もうひとつ忘れてはいけないのが、スーパーやメーカーの対応コストです。
来年4月に「8%→1%」にする際、POSレジ、値札、商品マスター、会計システムなどをすべて変更します。
そして2年後、「1%→8%」に戻す際、全く同じ修正作業をもう一度行わなければなりません。
システム改修費、値札の貼り替え作業、人件費――。
企業としては「この追加コストも商品価格に多少なりとも転嫁したい」と考えるのが普通です。となれば、店頭価格が117円どころか120円に跳ね上がる商品が出てきてもおかしくありません。
問題は「戻せるか」ではなく「戻した時の衝撃」
私は、2年後に8%へ戻すことが法律上できるかどうかを心配しているわけではありません。決めれば実行はできます。
気になるのは、「その時、家計にどれだけ巨大なショックが出るか」です。
2年間に蓄積した「本体価格の値上がり」の上に、さらに「7ポイントの税率アップ」が一気に覆いかぶさる。
これを食品で一斉にやれば、消費の冷え込みは避けられません。
そのときの政権が何党なのか、誰が総理大臣なのかには興味はありません。
私が気になるのは、「政権が持つか」ではなく「私たちの家計が持つか」なのです。
もし8%へ戻せなかったら、その穴はどこへ?
そして、ここからさらにもうひとつの大問題が出てきます。
2年後、あまりの物価高ショックを恐れて「この状況で1%から8%へ戻すのは政治的に無理だ」という判断になった場合です。
そうなれば、食品消費税1%による「巨大な税収の穴」がそのまま残り続けることになります。
2年間限定なら「一時的な緊急避難」で済みます。しかし永久に1%が続けば、減った税収(年間数兆円規模)をどこかで毎年埋め続けないと、国の財政や社会保障が破綻してしまいます。
すると年金生活者としては、どうしても嫌な予感がしてきます。
- 所得税や住民税が増えるのか?
- 国民健康保険税や介護保険料がさらに引き上げられるのか?
- 後期高齢者の窓口負担が引き上げられるのか?
もちろん「消費税を戻せないから社会保険料を上げる」と公式に決まっているわけではありません。
しかし、国保も介護保険料もすでにじわじわと上がっている実態を見ていると、嫌でも勘ぐってしまいます。
減税は「入り口」より「出口」を見るべき
食品消費税を8%から1%へ下げれば、スタート直後は確かに安くなり、みんなが喜びます。
しかし、その2年間に本体価格が上がれば減税効果は徐々に薄れ、最後に8%へ戻せば強烈な物価高ショックが襲う。
逆に、ショックを恐れて戻せなければ、税収不足の穴埋めがどこかの負担増となって跳ね返ってくる。
つまり、「減税を始めること」より「その2年後をどう終わらせるのか」の方が、遥かに難しく恐ろしい問題なのです。
下げるときは「安くなりました!」で喝采を浴びることができます。
しかし、終わらせるときは「元に戻します」では済みません。すでに世の中の物価が変わっているからです。
減税の本当の怖さは、終わるときに見えてくる
食品消費税は低いまま。でも社会保障費や高齢化のコストは増え続ける。
もし2年後に8%へ戻せなかったら、その「開いた穴」は一体誰が、どんな形で埋めることになるのでしょうか。
年金生活者としては、「食品消費税を下げるために、裏で国保や介護保険料がさらに跳ね上がった」という本末転倒なオチにならないことを願うばかりです。
次回、最終回となる第4弾では、
「戻せなかった税収の穴は、結局どこで埋めるのか?〜私たちが覚悟すべき本当のツケ〜」
について考えてみたいと思います。
減税の本当の怖さは、始まったときではなく、終わるときにやってきます。次回も最後までお付き合いいただければ幸いです。



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