- 日本は本当に遅れているのか?
日本のマイナンバーカードは本当に遅いのか?
前回は、マイナンバーカードの新しい「属性証明機能」について書きました。
私のMotorola razr 50sには、すでにスマホ用電子証明書が登録されていましたが、新しい属性証明機能には対応していません。
もっとも、対応していたところで運転免許証にはならないし、私の通っている病院ではスマホのマイナ保険証もまだ使えそうにありません。何ともまどろっこしい話です。
そこで、ふと思いました。
「海外では、スマートフォンの身分証明書はどこまで進んでいるのだろう?」
日本だけが遅れているのでしょうか。それとも、海外でも似たような問題を抱えているのでしょうか。
今回は、世界各国のデジタル身分証事情を調べてみました。
世界の電子身分証を比較してみる
まず、各国の状況を一覧にしてみました。
| 国・地域 | 電子身分証の状況 | スマホでの利用 |
| エストニア | 行政・銀行・電子署名で広く利用 | スマホ認証で行政手続きや契約 |
| デンマーク | 行政・金融の共通認証が普及 | 免許証・健康保険証をアプリ化 |
| ドイツ | 電子IDカード制度あり | スマホで実物カードを読み取り認証 |
| 韓国 | モバイル身分証制度を全国展開 | 免許証・住民登録証をスマホ化 |
| 中国 | 国家による電子本人認証制度を展開 | ネット上での本人認証などに利用 |
| EU | 27か国共通規格を整備中 | 2026年末までにウォレット提供予定 |
| 日本 | マイナンバーカードを中心に機能拡大 | 保険証・電子証明書・属性証明など段階的に対応 |
※2026年10月現在。スマホで本人認証できることと、実物の身分証明書を完全に代用できることは異なります。
一覧を見ると、すでにスマホで免許証や健康保険証を使える国もあれば、日本と同じように段階的に進めている国もあります。面白いことに、それぞれの国でアプローチが違うのです。
デンマークでは免許証も健康保険証もスマホに
最初に驚いたのが、北欧のデンマークです。
デンマークでは、すでに運転免許証と健康保険証をスマートフォンのアプリで利用できます。運転免許証は、警察官に求められたときにアプリを提示して確認してもらう仕組みです。
つまり、日本で私が望んでいる「スマホ免許証」をすでに実現しているのです。
健康保険証も同様で、専用アプリでデジタル版を表示できます。
「それなら、もう実物のカードは不要なのか?」というと、そう簡単でもありません。
- 国外で運転する場合には、実物の免許証が必要。
- 病院によってはスマホの健康保険証を読み取れず、実物のカードが必要になることもある。
- スマホの電池が切れていたら免許証を提示できない。
なるほど。電子化が進んだ国でも、「スマホの電池切れ」という極めてアナログな問題は解決できないようです。
それでも、免許証と健康保険証の両方がスマホで利用できるのは、うらやましい話です。
エストニアは電子政府の先進国
続いてエストニアです。
人口約137万人の小さな国ですが、電子政府の先進国として知られています。
行政手続き、銀行取引、電子署名など、さまざまな場面で電子IDが使われています。特に便利なのが、スマートフォンによる本人認証です。例えば、銀行のネットサービスにログインしたり、電子契約を結んだりするときに「Smart-ID」などを利用できます。
日本にも電子証明書を使った同様の仕組みがありますが、エストニアでは行政と民間の両方で電子認証が広く定着しています。
ここで注目したいのは、「電子身分証を発行すること自体が目的ではない」という点です。実際に利用できる行政サービスや民間サービスが充実しているのです。
もっとも、エストニアでもあらゆる場面で実物の身分証明書が不要になったわけではありません。また、人口約137万人の国と日本のような人口1億人以上の国では事情も違うでしょう。
それでも、日本が参考にできる部分は多そうです。
ドイツも意外に苦労している
次はドイツです。
日本と同じように工業技術の進んだ国ですから、行政のデジタル化も進んでいると思っていました。しかし、実際には課題も多いようです。
ドイツには、電子ID機能を持った身分証明カードがあります。スマートフォンの「AusweisApp」を使うと、NFC(近距離無線通信)で実物のカードを読み取り、オンラインで本人確認ができます。
つまり、スマホそのものが身分証明書になるというより、「スマホが身分証明カードの読み取り機になる」わけです。必要な暗証番号を入力するなど、一定の手続きもあります。
これは、日本で実物のマイナンバーカードをスマホに読み取らせる方法とよく似ています。
技術先進国のドイツでも、カードを完全にスマホへ置き換えるのは簡単ではないようです。少し親近感が湧いてきました。
韓国ではスマホの住民登録証が正式な身分証に
次は、お隣の韓国です。
韓国では、2025年3月からスマートフォンの住民登録証が全国で利用できるようになりました。この「モバイル住民登録証」には実物の住民登録証と同じ法的効力があり、行政機関や銀行などで利用できます。
さらに、運転免許証もスマホに搭載できます。
これは私としては特に気になるところです。
日本でも2025年3月から「マイナ免許証」が始まりましたが、免許情報が入るのは実物のマイナンバーカードです。スマホのマイナンバーカードは、運転免許証としては使えません。
韓国では、その一歩先まで進んでいるわけです。
もっとも、韓国でも対応端末や本人確認の手続きが必要で、すべての窓口で無条件に使えるわけではありません。「法的に使えること」と「実際にどこでも使えること」は別問題――この点は、日本にも共通する課題です。
スマホ先進国・中国ではどうなっている?
さて、中国はどうでしょう。
中国ではWeChat PayやAlipayなどのスマホ決済が普及し、買い物から交通までスマホを利用する生活が広がっています。
実際、中国では以前から電子身分証の実証実験などが行われていましたが、2025年7月からは国家による新しいインターネット本人認証制度(「網号」「網証」と呼ばれる仕組み)が始まりました。
利用者が本人確認をして専用の認証情報を取得し、対応するネットサービスで利用します。これによって、サービスごとに氏名や身分証番号などを直接渡す機会を減らせるとされています。
なんだか、日本の電子証明書や属性証明機能に似ていますね。
ただし、これは主に「インターネット上での本人認証」を目的とした制度です。中国でも、実物の身分証明書や運転免許証が全国どこでも不要になったわけではありません。
便利さと個人情報管理の問題
中国の仕組みには、別の側面もあります。
政府が本人認証の基盤を管理することで個人情報を各企業に渡す機会が減るという利点がある一方、国家が認証基盤を集中管理することに対しては、プライバシーや監視への懸念も指摘されています。
利用者がどのサービスを利用しているのか、その情報を誰がどこまで把握できるのか――。
便利だからといって、何でも一元管理すればよいという話ではありません。これは中国だけでなく、日本も含めた世界共通の課題でしょう。「利便性と個人情報保護の両立」は、電子身分証の普及において避けて通れない問題です。
EUは27か国共通の電子身分証を計画
さらに大きな取り組みを進めているのがEUです。
EUでは、27の加盟国が共通規格で利用できる「欧州デジタルIDウォレット」の整備を進めており、2026年末までに各加盟国が少なくとも一つのウォレットを提供する計画です。
この仕組みによって、本人確認、電子署名、資格情報の提示などを国境を越えて利用できるようにします。例えば、ドイツ人がフランスのオンラインサービスで本人確認をしたり、別の加盟国で資格情報を提示したりできるようになるわけです。
一国だけでも大変なのに、27か国。しかも言語も行政制度も違います。相当に大変な事業でしょう。
ただし、EUの目的は「すべての個人情報を一つのデータベースに集めること」ではありません。共通規格を使い、各国で発行された情報を安全に相互利用できるようにすることです。
さらに、「必要な情報だけを相手に提示する」という考え方も重視しています。
例えば、年齢確認で必要なのが「18歳以上である」という事実だけなら、氏名や住所まですべて知らせる必要はありません。
なるほど。これは日本の属性証明機能にも通じる考え方です。
前回、あれほど分からなかった属性証明機能ですが、ようやく少し意味が分かってきました。
もっとも、EUでも実際に普及するには銀行や店舗などの対応が必要です。制度ができたからといって、翌日からどこでも使えるわけではない点も日本と同じです。
世界を調べて分かったこと
今回、各国の事情を調べてみて分かったのは、「スマホ身分証の普及に、世界共通の正解はまだない」ということです。
- デンマーク・韓国:スマホ免許証が実用化されている
- エストニア:行政や銀行での電子認証が広く定着している
- ドイツ:実物のカードをスマホで読み取る方法が中心
- 中国:国家による電子本人認証が進められている
- EU:27か国共通の仕組みをこれから本格的に整えようとしている
つまり、各国がそれぞれの方法で取り組んでおり、そしてどの国にも課題があります。
- 端末や読み取り設備の対応
- 個人情報の保護と本人確認の安全性
- 法律や行政制度との整合性
- スマホを持たない人への配慮
どれも簡単な問題ではありません。日本だけが特別に苦労しているわけではないのですね。
電子身分証は、何のためにあるのか?
私は、スマホのマイナンバーカードというものは「最終的に財布からカードをなくすためのもの」だと思っていました。
もちろん、それも大きな目的の一つでしょう。しかし、海外の事例を見るとそれだけではありません。
- 行政手続きを便利にする
- 銀行での本人確認を簡単にする
- 必要以上に個人情報を渡さない
- 安全に電子契約を結べるようにする
こうしたことも重要な目的なのです。
そう考えると、前回の属性証明機能にも意味があることは分かります。
分かりますが……。

やっぱり名前が分かりにくい!(笑)
「属性証明機能を搭載しました」と言われるより、
- 「このスマホだけで銀行口座が作れます」
- 「このスマホだけで病院の受付ができます」
- 「運転免許証もスマホに入ります」
と言われた方が、よほどありがたい話です。国民が知りたいのは難しい技術の名前ではなく、「それによって何が便利になるのか」ということでしょう。
デジタル庁と私の競争は続く
今回の海外調査で、日本も決して何もしていないわけではないことが分かりました。
ただ、デンマークや韓国ではすでにスマホの運転免許証が実用化されています。その点では、日本にも頑張ってほしいところです。
私は現在67歳。75歳くらいで運転免許証を返納するつもりなので、残りは約8年です。それまでに日本でもスマホ免許証が使えるようになるでしょうか。
一方、健康保険証はすでにスマホ対応が始まっています。しかし、病院側が対応していなければ利用できません。こちらは、私がお医者さんに「ご臨終です」と言われるまでの長期戦です。できれば、100歳を超えるまで使い続けたいと思っています。
世界中で、電子身分証を便利にするための取り組みが続いています。
技術、法律、設備、個人情報保護――解決しなければならない問題は山ほどあります。
だからこそ、急いでほしいのです。技術の進歩は待てても、私の加齢は待ってくれません。
デジタル庁の皆さん。海外の取り組みも参考にして、ぜひ頑張ってください。こちらも健康管理を続けて、できるだけ長く待つつもりです。
もっとも、私が100歳になっても病院の受付でマイナンバーカードを取り出していたら……。
その頃には、私の月35円のスマホも、とっくに何台も代替わりしているでしょうね(笑)。


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