クルマ離れではなく、クルマから遠くへ行ってしまった

- 若者のクルマ離れの理由について

免許更新から思う事

前回、免許更新の話を書きました。 65歳を過ぎて、視力の低下で、次の免許更新はどうなるか。 あと何年運転できるのか。 免許返納という言葉も、若い頃にはまったく他人事でしたが、今では笑い話だけでは済まなくなってきました。

若い頃は、免許を取ること自体がひとつの大きなイベントでした。 そして、クルマを持つことは、少し大げさに言えば「自由を手に入れること」でもありました。 休日にどこへ行くか。 誰を乗せるか。 どんな音楽をかけるか。 高速道路を走るだけでも、何となく大人になった気がしたものです。

ところが最近は、よく「若者のクルマ離れ」と言われます。 もちろん、都市部では公共交通機関が発達しています。 スマホがあれば暇つぶしもできるし、旅行も動画で見られる。 昔のように「彼女を乗せて海までドライブ」という時代ではないのかもしれません。

ただ、私はこの「若者のクルマ離れ」という言葉を聞くたびに、少し違和感があります。 本当に若者はクルマに興味がなくなったのでしょうか。 それとも、クルマが普通の若者には買いにくいものになってしまっただけではないのでしょうか。

私の愛したスバル車たち

私自身の車遍歴を振り返ると、結婚後はスバル(旧富士重工)の車ばかりでした。 レガシィを3台(BG5、BG9、BP5)。 その後、レヴォーグ(VM4)に乗り、現在はクロストレック(GUE)に乗っています。 こうして見ると、なかなかのスバル好きです。

ただし、スバル好きとしては少し珍しいかもしれませんが、この中でターボモデルはレヴォーグだけです。 レガシィBG5も、BG9も、BP5も、私が乗っていたのはノンターボでした。 今のクロストレックももちろんターボモデルは有りません。

スバルといえば、水平対向エンジン。 AWD(つまり四輪駆動)。 さらに昔のレガシィGTといえば、水平対向エンジンにターボを組み合わせた、少し特別な存在でした。 私自身はGTターボを乗り継いだわけではありませんが、スバルというメーカーは、水平対向エンジンとAWDという基本形を長く続けてきました。 そのため、時代ごとのクルマの価格や性能を比較しやすいメーカーだと思います。

レガシィGTという車

特にレガシィGTは、平成の日本車を語るうえで、とても分かりやすい存在です。

初代レガシィGTは、1989年に登場しました。平成元年です。 バブルの空気がまだ残っていた時代です。 当時のレガシィツーリングワゴンGTは、水平対向2リッターターボで200馬力。 ワゴンなのに速い、荷物も積める、雪道にも強い。 まさに、スキーやアウトドアに出かける人にとって、憧れの一台でした。

その後、2代目、3代目と進むにつれ、レガシィGTはどんどん高性能になっていきます。 250馬力、280馬力。 当時の国産車の自主規制上限に近い性能を持つ、かなり本格的な高性能ワゴンでした。 4代目のBP型になると、私もノンターボモデルに乗っていましたが、2.0GTは280馬力。 ボディは洗練され、内装も上質になり、燃費や安全性も改善されていました。

5代目では、2.5GTや2.0GT DITが登場します。 2.0GT DITは300馬力。 もはや単なる「速いワゴン」ではなく、高性能AWDツアラーと呼んだ方がよい存在になっていました。

スバル 歴代レガシィが懐かしい

歴代レガシィGTの一覧表

ここで、レガシィGT系の価格を並べると、ひとつの流れが見えてきます。

世代・型式代表タイプ / グレード発売時期標準価格・新車価格最高出力カタログ燃費備考
初代 BF5レガシィツーリングワゴン GT1989年10月約264.8万円200ps8.0km/LEJ20 水平対向2.0Lターボ
2代目 BG5レガシィツーリングワゴン GT/B-spec1993年10月約319.3万円250ps9.4km/LEJ20 水平対向2.0Lツインターボ
3代目 BH5レガシィツーリングワゴン GT-B1998年6月約289.8万円280ps10.8km/LEJ20 水平対向2.0Lツインターボ
4代目 BP5レガシィツーリングワゴン 2.0GT2004年4月約302.4万円280ps13.0km/LEJ20 水平対向2.0Lターボ
5代目 BR9レガシィツーリングワゴン 2.5GT Lパッケージ2009年5月約320.3万円285ps11.2km/LEJ25 水平対向2.5Lターボ
5代目 BRGレガシィツーリングワゴン 2.0GT DIT2012年5月約359.1万円300psJC08 12.4km/LFA20 水平対向2.0L直噴ターボ
6代目 BS9レガシィアウトバック 2.5 / Limited系2014年10月約313万円台〜175psJC08 14.6km/LFB25 水平対向2.5L NA。GTターボではない

モデルチェンジの都度、高価格に

初代のレガシィGTは、およそ260万円台(約264.8万円)。 5代目の2.0GT DITになると、およそ360万円前後(約359.1万円)。 約23年で、100万円近く高くなっています。

もちろん、これは単純な値上げではありません。 馬力は上がりました。安全性も上がりました。ボディ剛性も上がりました。内装も良くなりました。 燃費も、昔のターボ車と比べればかなり改善されています。 つまり、スバルが何もせずに値段だけ上げたわけではありません。 クルマそのものは、確実に良くなっています。

問題は、買う側の給料が、それに合わせて良くなったのかということです。

置き去りにされた日本の給料

ここで、日本とアメリカの大卒初任給、具体的に国民年金満額の推移を表で見てみます。

発売年レガシィ代表モデル日本の大卒初任給・月額アメリカ大卒初任給・年額アメリカ月換算国民年金満額・年額国民年金満額・月額
1989年初代 BF5 GT160,900円$26,297約$2,191666,000円55,500円
1993年2代目 BG5 GT/B-spec190,300円$28,088約$2,341737,300円約61,442円
1998年3代目 BH5 GT-B195,500円$34,471約$2,873799,500円66,625円
2004年4代目 BP5 2.0GT198,300円$39,960約$3,330794,500円約66,208円
2009年5代目 BR9 2.5GT201,400円$48,633約$4,053792,100円約66,008円
2012年5代目 BRG 2.0GT DIT201,800円$44,259約$3,688786,500円約65,542円
2014年6代目 BS9 アウトバック 2.5 NA200,400円$48,127約$4,011772,800円64,400円

日本とアメリカの初任給、年金額を並べてみたら

この表を見ると、なかなか考えさせられます。 1989年の日本の大卒初任給は、月16万円台でした。 2014年になっても、月20万円前後です。 約25年で、4万円ほどしか増えていません。

一方、アメリカの大卒初任給は、この間にかなり上がっています。 もちろんドル建てなので、為替の影響もあります。日米の雇用制度も違います。 日本の初任給は横並び的で、アメリカは職種や地域差も大きい。そのため単純比較はできません。 それでも、ひとつの傾向は見えます。 日本の若者の給料は、平成の長い時代を通じて、ほとんど大きく伸びませんでした。

年金も上がらない

国民年金満額も表に入れてみると、さらに分かりやすくなります。 年金も多少は上がっていますが、こちらも大きく右肩上がりというより、ある時期からほぼ横ばいに近い印象です。 現役世代の給料も伸びない。将来の年金も大きく増えるわけではない。 その中で、クルマだけが高く、立派になっていった。 これでは、若者がクルマを買わなくなったとしても、不思議ではありません。

クルマは車両価格だけではない

昔は、少し無理をすればクルマを買えました。 もちろんローンを組むこともありました。給料のかなりの部分をクルマにつぎ込む人もいました。 それでも、クルマは「頑張れば届くもの」でした。

ところが今はどうでしょう。 車両価格が上がっただけではありません。 自動車保険も必要です。ガソリン代もかかります。タイヤも高い。 車検もある。自動車税もある。都市部なら駐車場代も大きな負担です。 クルマを買うということは、車両本体を買うだけではありません。毎月、固定費を背負うということです。

若者が冷静に考えて、 「それなら必要なときだけレンタカーでいい」 「駅近に住んだ方がいい」 「スマホとサブスクの方が生活満足度が高い」 と思ったとしても、それは価値観の劣化ではなく、きわめて合理的な判断です。

よく「今の若者はクルマに興味がない」と言われます。 しかし私は、若者が急にクルマ嫌いになったとは思いません。 スポーツカーを見れば、今でもかっこいいと思う若者はいるでしょう。 キャンプや旅行に行くなら、クルマがあった方が楽しいと思う人もいるでしょう。 SNSで珍しい車や旧車の動画が流れれば、興味を持つ人も少なくないはずです。

ただ、興味があっても買えない。維持できない。 将来の生活を考えると、そこまでお金をかけられない。 それが現実ではないでしょうか。

メーカーの主戦場は海を渡り

スバルに話を戻すと、これはスバルだけの問題ではありません。 日本の自動車産業全体が、国内市場だけを見て成り立っているわけではありません。 スバルの場合、特に北米市場の比重が大きいメーカーです。

アメリカでは、AWD、安全性、アウトドア感、実用性が高く評価されました。 レガシィ、アウトバック、フォレスターなどは、まさに北米でブランド価値を高めた車です。

そうなると、車づくりも当然、北米市場を強く意識するようになります。 ボディは大きくなる。安全装備は充実する。快適装備も増える。衝突安全基準にも対応する。そして、価格も、北米で利益が出る価格帯を意識する。 メーカーとしては当然の判断です。国内だけで台数が売れないなら、利益の出る市場に合わせた車を作るしかありません。

日本だけが取り残された

その結果、日本のユーザーから見ると、昔より大きく、立派で、高いクルマになっていきました。

レガシィもそうです。 かつてのレガシィGTは、日本のサラリーマンが少し背伸びして買える「速いワゴン」でした。 しかし時代が進むにつれ、レガシィは北米を意識した大柄で上質な車になりました。 そして、6代目では、日本国内のレガシィから、かつてのGTターボの姿は消えました。 アウトバックは2.5リッター自然吸気エンジンとなり、安全で快適なクロスオーバーとしての性格が強くなりました。

これは悪いことではありません。アウトバックは良い車です。 安全で、荷物も積めて、長距離も楽で、雪道にも強い。 年齢を重ねた今の私なら、むしろその良さも分かります。 しかし、昔のレガシィGTにあった、「ちょっと無理すれば手が届く高性能車」という雰囲気は、少し遠くなったように思います。

私のこれからの運転人生

私自身、今の車はクロストレックです。 アイサイトもある。サイズも扱いやすい。安全性も高い。 年金生活に入った身としては、現実的な選択だったと思います。

本音を言えば、BRZのようなFRのスポーツカーにも憧れはあります。 でも、年金生活でスポーツカーを買うとなると、まず最大の難関は妻への説明です。 「安全のためにアイサイト付きの車にした」 これは説明しやすい。 「老後の楽しみとして2ドアのスポーツカーにした」 これは、夕食のおかずが一品減る可能性があります。 そう考えると、クロストレックは人生の落としどころとして、なかなかよくできた車なのかもしれません。

若い頃、クルマは憧れでした。 レガシィGTのような車は、性能も夢もありました。 そして、頑張れば何とか手が届く存在でもありました。

でも今は、クルマそのものが高くなりました。 安全で、快適で、高性能になった。メーカーも努力している。決して悪くなったわけではありません。 ただ、日本の給料が、その進化についていけなかった。

本当の若者のクルマ離れの理由

だから私は、「若者のクルマ離れ」という言葉だけで片づけるのは、少し乱暴だと思います。

若者がクルマから離れたのではない。 クルマの方が、日本の若者の給料から遠くへ行ってしまった。

そう考える方が、今の時代には合っている気がします。

昔なら、次はどんな速い車に乗ろうかと考えていたかもしれません。 今は、あと何年、安全に運転できるかを考えています。

クルマとの付き合い方も、時代と年齢で変わります。 それでも、水平対向エンジンの音を聞きながら走ると、やっぱり少し楽しい。 若者がクルマを買わなくなった時代でも、クルマに乗る楽しさそのものは、まだ完全には消えていないと思います。

ただ、その楽しさにたどり着くまでの値段が、昔よりずいぶん高くなってしまった。 それが、今の「クルマ離れ」の正体なのかもしれません。

― 年金生活者の白日夢 ―
年金生活での投資と資産の取り崩しや年金、健康保険に関すること。
すべて実体験のお話です。

 

※本記事は筆者自身の経験や調査に基づいて作成しています。 投資には価格変動などのリスクがあり、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
年金制度や健康保険制度、保険料・税金等の取り扱いは、法改正やお住まいの自治体、年齢、所得、家族構成などによって異なる場合があります。最新の情報については、年金事務所や自治体窓口等でご確認ください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言、税務相談、保険加入等を推奨するものではありません。
※本記事は、67歳の年金生活者である筆者自身の体験や調査をもとに執筆しています。
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