年金は増えているのに、なぜか楽にならない

― 年金は増えるのに豊かにならない理由 ― 月15万円の現実と80歳の未来 ―

通帳の数字と静かな現実

先週末は年金支給日でした。
支給と言われたら施しを受けているようで嫌ですね。

先週金曜日は積み立てた年金を返済してもらっている日でした。

銀行の通帳を開くたびに、私は少しだけ安心し、そして少しだけ不思議な気持ちになります。
年金の振込額が、去年よりわずかに増えているからです。

増えたと言っても、大げさなものではありません。
月に三千円か、四千円ほどです。
外食を一度控えれば消えてしまう程度の差です。

それでも、数字は確かに増えています。
通帳は嘘をつきません。

私は65歳で年金を受け取り始めました。
その時の金額は、月に約15万円でした。

決して余裕があるとは言えませんが、慎ましく暮らしていくには、どうにかやっていける額だと思いました。
贅沢はできなくても、生活は守られている。
なんとか、そう感じられる金額でした。

あれから2年が過ぎ、年金は少しずつ増えています。
通帳に記される数字だけを見れば、状況は良くなっているはずです。

しかし、不思議なことに、生活が楽になったという実感はありません。

スーパーで買い物をすると、以前よりも合計金額が高くなっています。
同じ牛乳、同じ卵、同じ豆腐を買っているだけなのに、レジの表示は確実に増えています。

年金額は確かに増えているが豊かにならない

年金は増えている。
それなのに、なぜか豊かになった気がしないのです。

制度の仕組みがこのまま続けば、私が80歳になる頃、通帳には月に約17万3千円という数字が並ぶ計算になります。
65歳の時の15万円と比べれば、2万円以上の増加です。

数字だけ見れば、歓迎すべきことです。
「年金は増えている」と胸を張って言うこともできるでしょう。

しかし、その17万3千円は、今の17万3千円ではありません。

まるで、こちらが半歩進むと、世の中が三歩ほど進んでいくような感覚です。
決して置いていかれるわけではありません。
しかし、追いつくこともできません。

ねんきん定期便

物価の上昇を考慮すると、その価値は現在の約13万6千円ほどに相当します。
つまり、通帳の数字は増えていても、実際に使える価値は減っているのです。

増えているはずなのに、減っている。

これは錯覚ではなく、制度の仕組みそのものによって起きる現実です。

マクロ経済スライドの静かな影

この仕組みは「マクロ経済スライド」と呼ばれています。
ずいぶん大げさな名前ですが、その働きはとても静かです。

ある日突然、年金が減るわけではありません。
誰かが「今日から減ります」と宣言することもありません。

ただ、少しずつ、気づかないほどの速さで、実質的な価値が変わっていきます。

それは、冬の日が短くなっていくのと似ています。
昨日と今日を比べても違いは分かりません。
しかし、一ヶ月後には、確かに日が短くなっています。

誰のせいでもありません。
ただ、時間が過ぎただけです。

年金生活が現実になると

それでも、年金が振り込まれる日は、どこかほっとします。

株価は気まぐれに上下し、為替は予想を裏切ります。
しかし、年金は何も言わず、決まった日に、決まった口座に振り込まれます。

それはまるで、寡黙な旧友のようです。
多くを語らず、目立ちもしませんが、確かにそこにいて、私の生活を支えています。

若い頃、天引きされていた年金保険料の意味を、私は深く考えたことがありませんでした。
それは遠い未来の話であり、どこか他人事のようにも感じられました。

しかし今、その未来の中に、私はいます。

通帳の数字を眺めながら、思います。
これは、若い頃の自分が、今の自分のために残してくれたものなのだと。

増えているのに減っていく

十分とは言えないかもしれません。
しかし、何もないわけでもありません。

増えているようで、少しずつ減っていく年金。
その現実は、どこか人生そのものに似ています。

若さは減っていきますが、思い出は増えていきます。
できることは減りますが、分かることは増えていきます。

通帳を閉じ、湯のみを手に取ります。
湯気が静かに立ち上り、やがて消えていきます。

それでも、不思議な安心感があります。

毎月、決まった日に、決まった金額が振り込まれる。
この規則正しさは、年金制度の最大の美徳かもしれません。

株価は上がったり下がったりします。
為替も気まぐれです。
金利も、いつ機嫌を変えるか分かりません。

しかし、年金は黙って振り込まれます。
文句も言わず、遅れもせず、ただ静かに。

派手ではありません。
しかし、確かに、今日という一日を支えています。

それで十分なのだと、今は思っています。

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