- 視力検査より怖かった「暗証番号あと1回」の恐怖
視力に自信のない運転免許更新
以前、加齢黄斑変性になってから視力が落ち、
という話を書きました。
私の裸眼視力は、両目とも0.07くらいです。
もちろん普段は眼鏡をかけていますが、眼鏡屋さんからは、
「これ以上、度を強くしても視力は上がりませんね」と言われています。
若い頃なら、「じゃあ、もっと度の強い眼鏡にしてください」で済んだような気がします。
しかし、眼鏡というのは魔法の道具ではありません。眼鏡で直せるのは、基本的には近視、遠視、乱視などによる「ピントのずれ」です。適切な度数まで合わせても視力が上がらない場合、さらにレンズを強くすれば見えるというわけではありません。
私の場合には加齢黄斑変性がありますし、若干の白内障もあります。
カメラに例えれば、単純にレンズの焦点だけの問題ではなく、撮像素子側にも問題があるようなものです。レンズだけ高級品に交換しても、カメラ本体まで新品になるわけではありません。人間も古くなると痛みが重なり、なかなか複雑です。
もし今回の免許更新で視力がどうしても足りなければ、眼科医と相談し、白内障手術も考えていました。
ただし、白内障手術で眼内レンズを入れれば加齢黄斑変性まで治るわけではありません。水晶体の濁りが取れて見え方が改善する可能性はあっても、黄斑そのものの障害は別だからです。
ということで、まずは免許更新。
9月末が誕生日の私は、更新期間に入ってすぐの9月1日、午前中に眼科へ行って視力を測ってもらいました。
眼鏡をかけて測定すると、「これなら、たぶん免許更新は大丈夫でしょう」という感触。
だったら勢いのあるうちに行ってしまえ。
その日の午後、そのまま管轄の警察署へ向かいました。
今回は「マイナ免許証+普通の免許証」の2枚持ち
今回、私はマイナ免許証にすることにしました。
ただし、「マイナ免許証だけ」ではありません。従来の運転免許証との2枚持ちです。
なぜ2枚持ちなのか。
まず普段の身分証明書として持ち歩くのは、できればマイナンバーカード1枚だけにしたいからです。最近はキャッシュレス決済を使うことが多く、現金を使う機会もかなり減りました。財布は薄いに越したことはありません。紙幣についても少量しか持ちません。
……と書けば格好いいですが、そもそも分厚くなるほど紙幣を入れる余裕がない、という事情もあります。
もう1つの理由がレンタカーです。
私はときどき、「久しぶりにマニュアル車に乗りたいな」という、年金受給者としてはあまり生活に必要のない衝動に襲われます。今の車はATですから、その場合はレンタカーを利用することになります。
マイナ免許証への対応は広がっていますが、事業者によって読み取りや確認方法などが確立されていない場面も考えられます。そんなときに従来の免許証もあれば、「はい、これです」でスムーズに終わります。
デジタル社会へ前進しながら、念のためアナログのカードも持つ。これが67歳のDXです。
そしてもう1つ期待していたのが、「次回から更新講習をオンラインで受けられる」ということでした。
この時点では、「これは便利だ」と思っていましたが、後で大きな勘違いに気付くことになります。
まず最大の難関、視力検査
更新手続きを済ませ、いよいよ視力検査です。
機械の穴をのぞき込みます。あの、「右、左、上、下」と答えるランドルト環です。
ところが加齢黄斑変性というのは厄介です。片目だけで見ると、視界の一部分が見えにくい。そして、よりによってランドルト環がその見えにくい部分に見事に入ります。
「いや、そこじゃない。もう少し右へ行ってくれ」
と心の中でお願いしても、ランドルト環は動いてくれません。
「えーっと……」
少し視線をずらします。真正面ではなく、わずかに違うところを見ると分かる。俗にいう「そらし目」です。
「えーっと……下!」
なぜか署内に響くほど大きな声になりました。別に声量測定ではありませんが、何とか正解。
そして、合格。
これは本当にうれしかった。警察署内でガッツポーズするわけにもいかないので平静を装っていましたが、心の中では金メダルです。
私は人の2倍勉強しました
続いて顔写真を撮影し、更新時講習です。
私は1時間。優良運転者なら30分ですが、私は一般運転者です。
その理由は4年ほど前。東名高速道路の制限速度区間を少し超過して走っていたところ、後ろから赤いランプを回した車がやってきまして、「こちらへどうぞ」と大変親切に案内してくれました。
道路脇に止まると、その場でサイン会。サインを書いたのは私だけです。しかも後日、参加費(反則金)まで払いました。
その結果、今回は1時間講習。30分の人の2倍勉強できます。
同じ免許更新に行って、たくさん勉強できる。何事も前向きに考えることが大切です。もっとも、その授業料はすでに15,000円も払っています。
本当の試験はここからだった
講習も終わり、従来の運転免許証を受け取りました。さあ、今度はマイナ免許証です。
女性警察官にマイナンバーカードを渡し、カードリーダーで手続きを始めます。
そして言われました。
「署名用電子証明書の暗証番号を入力してください」
英数字6~16桁のやつです。
はいはい。あれね。
私は長年IT関係の仕事をしてきた人間です。パスワードくらい大丈夫でしょう。
そう思って画面を見ると、普通のパソコンのキーボードではありません。
| A | B | C | D | E | F | 1 | 2 | 3 | |
| G | H | I | J | K | L | 4 | 5 | 6 | |
| M | N | O | P | Q | 7 | 8 | 9 | ||
| R | S | T | U | V | 0 | ||||
| W | X | Y | Z |
アルファベット順! 普段ブラインドタッチでQWERTYキーボードを打っている人間ほど、かえって分かりにくい。
それでも、「まあ大丈夫」と入力して「次へ」。
画面に赤い文字。
『入力された内容に誤りがあります』
そんな馬鹿な。押し間違えたか。もう一度。
『入力された内容に誤りがあります』
あれ? 脇の下に少し冷たい汗が出てきました。
「もしかして、あっちのパスワードだったかな?」
3回目。ダメ。
4回目。これもダメ。
ここで私の指が止まりました。
署名用電子証明書の暗証番号は、5回連続で間違えるとロックされます。
「あと1回」
野球なら9回裏ツーアウト満塁です。
ここで私は潔く撤退することにしました。
「すみません。4回間違えました。5回目は自信がないので今日は帰ります」
明日は用事があります。「明後日、また来ます」と宣言し、まるで留置所から出てきたコソ泥のようにうなだれながら警察署を後にしました。別に犯罪はしていません。暗証番号を忘れただけです。
スマホとコンビニで暗証番号を再設定
帰宅して調べてみると、署名用電子証明書の暗証番号は、スマートフォンとコンビニのマルチコピー機を使って再設定できます。
まずスマートフォンに「JPKI暗証番号リセット」アプリを入れます。マイナンバーカードをスマートフォンに当てて読み取り、4桁の暗証番号を入力した上で顔認証も行います。
67歳のおじさんが自宅でスマートフォンに顔を向け、指示に従って顔を動かす。30年前の自分が見たら「未来社会だ!」と感動するのでしょうが、本人はただ必死です。
事前手続きが終わったら、24時間以内に対応するコンビニへ行き、マルチコピー機から新しい暗証番号を設定します。
無事完了。今度こそ忘れない暗証番号にしました。
もっとも人間というのは、「これは絶対に忘れない」と思って設定したものほど、5年後には見事に忘れているものです。
2日後、警察署へ再挑戦
9月2日は私用があったため、9月3日に再び警察署へ。
受付で、「一昨日、暗証番号が分からなくて、マイナ免許証の登録が途中になった者ですが」と言うと、
「ああ、覚えていますよ」と。
警察官に顔を覚えられている年金受給者。あまり人に自慢できる実績ではありません。
再び女性警察官のところへ行き、マイナンバーカードを渡しました。今度こそ大丈夫。暗証番号も完璧です。
ところが今度は、警察側のパソコンが私のマイナンバーカードを読み込みません。
あれ? さっきまで全面的に私が悪かったのですが、急に立場が変わってきました。
USBケーブルを抜く。挿す。もう一度。ダメ。
パソコンを再起動。まだダメ。
そこで元IT業界のおじさんが急に元気になります。
「いやあ、こういう接続トラブルってありますよねえ」
10分前まで「パスワード忘れました」とうなだれていた人間とは思えません。人間、立場が逆転すると饒舌になります。
結局10分弱。ケーブルの抜き差しやパソコンの再起動を経て、ようやくカードを認識。
今度こそ私の出番です。新しく設定した暗証番号を入力。一発成功。
やった。……誰に勝ったのかは分かりません。
「これで終わり」ではありませんでした
これで全部終了、と思ったら、
「しばらくしてから、ご自宅でマイナポータルと免許情報の連携をしてください」
と言われました。
つまり、警察署でマイナ免許証の処理をしただけで、マイナポータルの各種サービスまで自動的につながるわけではありません。自宅に帰ってから、マイナポータルの「運転免許」メニューから連携手続きを行います。
ログインやカードの読み取り、署名用電子証明書の入力など、警察署でもらった説明書を見ながら自宅で最後の手続きを完了させました。
警察署へ行き、スマホで顔認証し、コンビニへ行き、もう一度警察署へ行き、最後に自宅でマイナポータル。
カード1枚を減らそうと思ったら、ずいぶんいろいろな場所を経由することになりました。ワンストップというより、私の場合はスタンプラリーです。

オンライン講習を使う前に高齢者になってしまう
これで次回の免許更新はオンライン講習。自宅でコーヒーでも飲みながら受講すればいい。
そう思っていたのですが、ここで重大なことに気付きました。
今回67歳になる私。次の更新時(5年後)は72歳。70歳を超えています。
現在の制度では、更新時に70歳以上であれば高齢者講習の対象になります(75歳以上では認知機能検査なども加わります)。
一方、オンライン更新時講習が利用できるのは優良運転者と一般運転者のみ。警察署でもらった案内にも、「オンライン更新時講習の受講(講習区分が優良・一般のみ)」とはっきり書いてあります。
つまり、「これで次はオンライン講習だ!」と喜んでマイナ免許証にしたのに、その前に高齢者講習の年齢になってしまう。
デジタル化より老化の方が速かった。これは完全に計算外でした。
マイナンバーカードを更新するときは要注意!
そして今回、警察署でもう1枚、非常に重要な紙をもらいました。

これは、マイナンバーカードそのものを更新するとき(あるいは券面の追記欄が満杯で再発行するとき)の注意事項です。
ここは私も最初、少し勘違いしていました。
「新しいマイナンバーカードが届いてから、今のカードに入っている免許情報を移せばいいんだろう」と思っていたのです。
ところが、そうではありませんでした。順番を間違えると免許情報が引き継がれないのです。
警察署でもらった案内によると、正しい手順は以下のようになっています。
- 【STEP 1】署名用電子証明書を提出 マイナ免許証取得時などに、あらかじめ警察窓口の端末で6~16桁の暗証番号を入力して提出しておく。
- 【STEP 2】個人番号カードオンライン申請サイトから交付申請 その上で、申請サイトで「マイナ免許証の継続利用を希望」を選び、免許情報記録番号(12桁)などを入力して申請する。
つまり、「新しいカードが届いてからマイナ免許証の手続きをする」のではなく、「新規にマイナ免許証を取得する前に(適切な手順を踏まずに)STEP 2の手続きをしてしまうと、免許情報が引き継がれていないカードが交付されてしまう」ということです。
※なお、郵送や証明写真機での申請、失効・紛失時の申請などは引き継ぎの対象外になる点も注意書きされています。
これは知らなければ、かなり陥りやすい罠です。
マイナ免許証を利用している人は、数年後にマイナンバーカードの更新通知が来たら、単にそのまま申請するのではなく、「自分のカードには免許証情報が入っている」と思い出して、この手順を踏む必要があります。
今回もらったこの紙。5年後、10年後まで失くさずに保管しておく自信がありませんので、このブログに貼っておくことにしました。ブログを自分用の取扱説明書にしてしまおうという作戦です。
2枚持ちは便利だけれど、全部のサービスが使えるわけではない
もう1つ、警察署でもらった資料を見て気付いたことがあります。
マイナポータルと連携すると、オンライン更新時講習だけでなく「住所変更ワンストップサービス」や「本籍のオンライン変更」といった機能が利用できるようになります。
ところが案内をよく読むと、これらのオンライン変更サービスは「マイナ免許証のみ」を持っている人が対象となっています。

私は安心のため、「マイナ免許証+従来の免許証」の2枚持ちにしました。
安心を1枚増やしたら、オンラインのワンストップサービスが使えなくなったわけです。世の中、なかなかうまくできています。
それでも現時点では、私は2枚持ちで正解だったと思っています。制度も運用もまだ移行期です。レンタカーを借りることもあるかもしれませんし、従来の免許証をそのまま見せる方が早い場面も多いでしょう。
75歳で免許返納を考えていますから、次が人生最後の免許証更新ですが、数年後、完全にマイナ免許証だけで困らない社会になったら、その時にまた1枚持ちへ移行すればいいと考えています。
まだ「完全ワンストップ」ではない。でも一歩は前へ進んだ
今回の免許更新を振り返ると、
- 眼科へ行く
- 警察署へ行く
- 視力検査で「下!」と叫ぶ
- 1時間講習を受ける
- 暗証番号を4回間違えて警察署から撤退する
- スマートフォンで顔認証する
- コンコンビニへ行って暗証番号を変更する
- 2日後に警察署へ戻る
- 今度は警察のパソコンが動かず再起動を待つ
- ようやく登録する
- 自宅に戻ってマイナポータルを操作する
カードを1枚減らしたかっただけなのに、なかなかの大事業になりました。
それでも私は、マイナンバーカードと運転免許証を一体化する方向性には賛成です。健康保険証、運転免許証、行政サービスがそれぞれ別々の仕組みで動き続けるより、本人が希望すれば1つにまとめられる方が合理的に決まっています。
ただ現在は、「カードを1枚にすれば、すべて自動的に1つになる」という段階にはまだ達していません。警察、マイナポータル、公的個人認証、自治体のシステムが、それぞれ少しずつ連携し始めたところです。
3歩進んで2歩下がる。水前寺清子さんも真っ青です。
もっとも、3歩進んで2歩下がっても、計算上は1歩前へ進んでいます。今回の私も、警察署から一度家へ戻り、コンビニへ行き、再び警察署へ行ったので、歩数だけなら確実に増えました。健康には良かったかもしれません。
これからマイナ免許証にしようという方へ。
今回の経験から私から言えるアドバイスは2つです。
- 視力に不安がある方は、更新前に眼科で確認しておくこと。
- 警察署へ行く前に、6~16桁の署名用電子証明書の暗証番号を必ず確認しておくこと。
更新前、私が一番心配していたのは視力検査でした。
しかし実際に私を一番追い詰めたのは、加齢黄斑変性でもランドルト環でもなく、自分で決めたはずの暗証番号でした。
人間、老後に一番信用できないものは、自分の記憶なのかもしれません。



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